「勝真さんは、諦めている自分が一番悪いんだって、
そういうことを考えていませんか?」
「……!」
今の反応は、たぶん図星なんだろう。
「自分は言い訳ばかりで……
京やそこに住む人のために何かしたいのに
実際は何も出来ていない。だけど、それが嫌でたまらない」
嫌でたまらないのに、どうすることも出来ない。
それでもまたもがいて、何かしたいからこそ京職を続けているのに、
何も出来ていない。
勝真さんの考えは全て繋がっていて、
それが無限にループしているんだ。
「確かに、あたしは京の……この世界の人間ではありません。
でも、今は、心からこの世界を救いたいって思ってます」
初めは、ただただ花梨ちゃんを助けてあげたいと思ったから。
あなたを好きになってからは、あなたの住む世界を救いたかったから。
ただ、それだけなんだ。
「誰かに認められたいとか、褒められたいだとか……
そういうことは、全く考えてないんですよね」
牡丹の姫という役目は、無理強いされたものじゃない。
それは花梨ちゃんにとっての龍神の神子と、きっと同じもの。
「あたしが、こうしたいと思ってやってることなんです。
自分がやりたくて、京のために動いているんです。
だからあたしは、どうせ無駄になるからといってやめたりしません」
何度か口にしたこともあるけど、別の言い方をすれば、
それはただの我が侭だと思う。
「無駄になるかどうかは、やってみなくちゃ解らないのに。
やる前からそんなことを考えたくはないんです」
それに、きっと……
無駄かどうかは、最後に自分が決めることなんじゃないかな。
「……何か、目に見える成果がなければダメですか?
そうじゃないと、京やそこに住む人のために
なっていないと思いますか?」
あたしの答えは、否、だ。
「一度に大きなことをするのって、誰にとっても難しいと思います。
だから、少しずつでいいんです」
力がないと言われて悔しくて、どうにか力をつけようとするのも、
今まで信じられなかった人と協力し合うために努力するのも。
何にだって言えることだ。焦らなくていい。
「今できることを一つずつ、
そうやっていけば確実に誰かのためになってます」
たとえそれを、すぐには実感できなくても。
そう、信じている。
「…………」
勝真さんは、どう答えたらいいのか迷っているようだった。
あたしはそれを解っていたけれど、そのまま続けた。
「勝真さんは、少しずつ変わっていると思います」
「そう、か……?」
「はい」
もう、あなたの中に諦めは無いと思うよ。
「初め、あたしを信じると言ってくれた勝真さん。
だけど、やっぱり心のどこかで諦めていると、そう言いましたね」
「……あぁ」
「信じて前に進みたいのに、諦めているから進めないって」
勝真さんは、黙ったまま頷いた。
「あなたは、ちゃんとあたしのことを信じてくれています。
信じて前に進もうとしてくれています。
だから今日も、イサトくんや自分のこと、
色々と話してくれたんですよね」
「……!」
ちゃんと信じてくれたからこそ、話しにくいことも話してくれた。
「それは、小さな一歩だから、進んでいるのか解りにくいかもしれません。
でも、少しずつ、確実に前に進んでいるんだと思います」
あたしには、そう見えるんだ。
「“あなたはまだ、自分の力を全て出し切ってはいません。
それなのに諦めてしまうのは、とても勿体無いことです”」
「その言葉は…………」
いつか、闇に堕ちたあたしを救ってくれた言葉。
前に一度、勝真さんに話したことがあった。
「大丈夫、あなたはまだ諦めていないから」
まだ、力を出せるよ。
まだ、前に進めるよ。
あなたの中に存在する「諦めていない自分」を、
ちゃんと見つけてあげてください。
笑ってみせたあたしに対して、勝真さんも笑い返してくれた。
「…………ありがとな、」
「あたしは、思ったことを言っただけです」
いつも、そうなんだ。
ただ、自分が思ったことを口にしただけ。
……ただ、自分がこうしたいと思ったことを、やってるだけなの。
「そうだよな……お前はいつも、自分の好きなようにやってる。
だが、それが周りの奴らを救っているんだ」
そうなのかな?
(でも、そうだといいな……。)
「お前の言ったことに対して、今さらどうこう言うのも意味はない。
ただ、その言葉を忘れないように、胸に刻もうと思う」
そう言った勝真さんの表情は、
どこか吹っ切れたような感じだった。
「一緒に、頑張りましょうね」
「そうだな」
見上げた空は、綺麗な青色だった。
「…………そろそろ帰るか」
「はい、そうしましょう」
だけど、もう少しでお邸に着く、というところで、
突然雲行きが怪しくなってきた。
「一雨きそうですね」
「あぁ……急ぐぞ」
「はい」
だけど、あたしたちが邸にたどり着く前に、
それは降りだしてしまって。
「って、降ってきちゃいました!」
「この距離なら、さっさと邸に帰った方がいい。
……走れるか?」
「はい、大丈夫です!」
「いい返事だ。じゃあ、行くぞ」
「はい!」
差し出された手を、前と同じくあたしは迷わずに取った。
「はぁっ……着きました、ね」
「あぁ……だが思った以上に雨で濡れちまったな」
確かに、あんなに頑張って走ったのにびしょびしょかも……。
「着物がベッタリくっついて気持ち悪いです……」
「そのままじゃ冷えるから、さっさと着替えろよ」
「はーい……」
うう、ベトベトだ……。
早く部屋に戻って着替えてこよう。
「あ、おい、!」
あたしが部屋に向かおうとしたら、
勝真さんが慌てて声を掛けてきた。
「はい?」
「あ、その……今日は色々とすまなかったな」
罰が悪いような感じで、勝真さんが言った。
「……そういうの、言いっこなしですよ。
あたしだって、勝真さんに散々迷惑かけてますし」
「そんなことは……」
「あ・り・ま・す!
おあいこだから、謝ったりしないでください」
あたしのその言葉を聞くと、また苦笑に近い笑みをもらした。
「じゃあ、一つだけ言っておく……
…………ありがとう、」
「はい!」
あたしも笑って、返事をした。
あたしだって、きっと年上の人から見たら、
まだまだ何も知らない子どもかもしれない。
偉そうに、みんなに何か言える人間でもないと思う。
だけど、大切な人が悩んでいるときに、伝えたいことがあるから。
だからあたしは、それをそのまま話してる。
あたしの話を聞いて元気になってくれるなら、
こんなに嬉しいことはないんだと思うんだ。
みんなの心を、あたたかくするための。
あなたの心を、あたたかくするための。
そんな言葉を、あげることが出来たらいいな。