勝真さんと伏見稲荷神社に行った日の翌日、
          また花梨ちゃんから文が届いた。

          そこには西の札についてだけでなく、色々なことが書かれていた。



          一つは、この京について。

          あたしも薄々気づいていたけれど、
          京の時間は秋で止まっているのではないか。
 
          花梨ちゃんが夢で見た京を分断する壁状の結界……

          あれによって陰陽の気が分けられ、
          流れが止められ気がめぐらないから時がとまったのでは、
          という考えらしい。





          「院や帝を呪っていた二つの怨霊すら、
           この結界のためだったかもしれないなんて……」


          それと、シリン、翡翠さんと幸鷹さんでまた何かあったみたい。
          (ほんとに白虎組って思ったより問題が多いなぁ……。)


          検非違使の人が、
          シリンと翡翠さんが松尾大社で話しているのを見たという。

          で、幸鷹さんは翡翠さんを疑ったけど、結局それは勘違いで。
          ……まぁ、翡翠さんがシリンにこちら側につくようにと誘われたらしいけど。


          それから、翡翠さんがシリンに
          千歳との関係について話したんだとか。

          シリンは千歳なんて関係ないと言い張っているけれど、
          実際、シリンは千歳に仕えているような行動を取っている。
          そこを、指摘したみたい。





          「シリンが千歳を蔑むようなことを言ったとたん、
           苦しみだした、か……」


          まさか、偶然でそんなことが起こるなんて考えられない。





          「明らかに千歳の力なんじゃ……?」


          松尾大社から紫姫のもとへ戻った花梨ちゃんと幸鷹さんの前には、
          先に帰ったはずの翡翠さんの姿があった。

          どうやら、今度は真面目に八葉として動いてくれるということらしい。


          紫姫の占いによれば、
          西の札を手にするのにいい日は十一月二十一日。

          その日までに課題を全て終わらせ、
          再び神護寺に向かう……という流れだ。





          「その課題も、しっかりクリアしちゃったみたいだし」


          ほんと、さすが花梨ちゃん、って感じだね。

          それで、二十一日までは前みたいに二手に別れて京をめぐり、
          五行の力を蓄える……ということになった、


          なったはずなんだけど……。













          「…………」

          「…………」


          花梨ちゃんは、前と同じくイサトくんに、
          あたしたちと一緒に行くように言ったらしいんだ。

          だけど、さっきから勝真さんとイサトくんがすごく気まずい感じで
          あたしも何も言えない状況だったりする……。

          (おそらく原因は、
           こないだ勝真さんがイサトくんと話をしたっていうあれだよね……)


          ……でも、このまま黙ってたって何も出来ないしね!
          どんどん行動してかないと!





          「イサトくん! 勝真さん! 
           さっさと具現化しに行きますよ!!」


          五行の力を蓄えるのって、具現化だけじゃない気がする……。

          あたしは、自分の言ったことが微妙に間違っていることに、
          後で気が付いたのだった。



















          …………で。

          あれから何箇所か回って、
          具現化やら怨霊倒すやらやってるんですが……。





          「…………」

          「…………」


          どうして気まずさが朝より増してるんですか!?
          普通は時間が経つにつれ、そういうのって解決されない!?

          …………まぁ、普通で片付けられるような
          問題じゃないんだろうけどね。


          だけど、このままじゃ良くないと思うし……。
          (何より、あたしがこの空気に耐えられない。)





          「ここは、なんとかするしかないよね…………」


          確か、来る途中にちょっとした森みたいなところがあったはず。
          あそこに寄って森林浴でもすれば、二人もリフレッシュできるかも。










          「あ、あの! 
           あたし、ちょっと寄りたいところがあるんですが」
 
          「寄りたいところ? 
           もう少しで日も暮れてくるから、そんなに遠くへは行けないぞ」

          「大丈夫です! お邸に帰る途中ですから」

          「そうか、それなら平気だな」


          よし、なんかいけそう!





          「イサトくんも、一緒に行こうね!」

          「え、俺も?」

          「もちろん!」


          何か言いたそうだったイサトくんを引っ張りながら、
          勝真さんとあたしと三人で目的地へと向かった。


















          「お前が言った寄りたいところって、ここなのか?」

          「はい!」


          もと来た道を引き返す途中、
          脇道にそれて森(みたいなところ)の中に入った。

          夕日のオレンジ色が木々の間から見えて、
          なんだか幻想的とも思える。





          「ちょっと、ここで休憩していきましょう!」

          「休憩?」

          「なんだよ、それ」


          イサトくんと勝真さんが口々に文句みたいなことを言ったけど、
          あたしは聞こえないふりをした。










          「…………あれ?」


          あそこにいるのって、リス?





          「かわいい!」


          あっ、こっち来た!





          「フカフカしてる!」

          「へぇ、人間を怖がらないんだな」

          「びびって逃げるもんかと思ってたぜ」


          あたしの肩に乗ってきたリスを見て、
          二人も思い思いのことを口にした。










          「…………ん?」


          あれ? もう一匹、リスが……





          「って、ええっ!?」


          も、もう一匹どころじゃない、
          なんかめちゃくちゃリスがいるんだけど……!

          どこからともなく現れたリスたちは、
          みんなしてあたしのところまでやって来た。





          「大人気だな、

          「笑ってる場合じゃないですよ、勝真さん!」

          「いいじゃねぇか、別に怨霊じゃないんだし」

          「イサトくんまで……!」


          確かに危害は無いけれど、なんかリスに埋もれそうだよ……!





          「…………え? あ、ちょっと!」


          どうしたものかと考えていると、リスが何かやっていた。

          よく見てみると、あたしが持っていたお菓子を
          取っちゃったみたいで。





          「それ、あたしのお菓子だよ! ダメ!」


          だけど、あたしの静止もむなしく、
          リスたちはどんどんあたしの持っていたお菓子を取っていく。





          「こら! ダメだってば!」


          あたしのお菓子が……!












          「…………の奴、なんであんなに菓子持ってんだ?」

          「アイツいわく、菓子は必需品なんだと。
           だからいつでも持ってるって話だ」

          「はぁ? 何だよ、それ」

          「おかしいだろ?」

          「ははっ、おかしすぎ」


          あ、あれ? 
          イサトくんと勝真さん、何だか楽しそう……?





          「って、ちょっと! 
           どれだけ人のお菓子を取る気なの!?」


          可愛いけど憎たらしいなぁ、もう!





          「、何やってんだ。そろそろ帰るぞ」

          「か、勝真さん! 
           帰るって言っても、リスたちが……」


          リスたちがあたしのお菓子を取っちゃうんです!





          「菓子くらいいいだろ。邸に帰ればいくらかあるだろうから」

          「そ、そうは言ってもですね! 
           なんか悔しいとゆうか……」


          しかもイサトくん、リスまみれのあたしを見て笑ってるし!





          「ま、いいじゃん、。そいつらだって腹減ってるんだよ」

          「あたしだってお腹すいてるよ!」

          「帰ればメシがあるんじゃねぇの?」

          「だ、だから、それでもなんか悔しいんだってば!」


          もう、勝真さんとイサトくんってなんか似てるなぁ、ほんと!











          「とにかく帰ろうぜ」

          「そうだな、もうじき完全に日も暮れるだろうから」


          そう言って、二人はさっさと行ってしまった。





          「って、待ってください!」


          まだ肩にリスを乗せたままのあたしは、
          そのまま走って二人を追いかけた。











          「…………でも、良かったよね」


          二人の気まずい雰囲気も、すっかりなくなってる。





          「リスくんたちに感謝、かな」





未だ肩に乗り続けているリスを見て、あたしはつぶやいた。