「まさか、翡翠殿、
           あなたは神子殿を裏切ってその白拍子についたのですか!?」

          「さあ、どうだろうねぇ」


          確かに、翡翠さんの行動を見てればそう思ってしまうかもしれない。

          まあ、ここまで来てそれは無いだろうけど、
          翡翠さんも、そう思われても仕方ない行動ばっかり取るからなぁ……。





          「いい選択だよ。あたしはお前を満足させてあげるよ」


          翡翠さんの行動に、シリンもそんなことを言い出した。





          「大きく出たね。では……ひとつ聞かせてもらおうか。
           君は、誰のために札を取りに来たのだね?」


          そっか、翡翠さんはシリンの妙な行動について、
          ここで明らかにしようとしてるんだ……。


          花梨ちゃんの文を読んだときから、
          あたしもずっと気になっていたけれど……

          アクラムのためと言いながら、
          シリンは実際のところ千歳のために動いている。













          「何を聞くかと思えば……そんな簡単なことかい。

           札は、アクラム様にお渡しするのさ。
           前は龍神の神子に奪われたが、今度は渡さないよ」


          やっぱりシリン本人は、アクラムのために動いているつもりだ。
          それから、“前”っていうのは、おそらく……

          あかねちゃんがいた時代のことだ……。





          「(前? 今度?)」
 
          「――何を言っているんだ?」


          当然ながら、あたし以外の人にそれは解らない。
          だから、花梨ちゃんも幸鷹さんも少し混乱していた。

          そんな中、千歳に従わなくていいのか、
          と翡翠さんはシリンに問い詰める。





          「なんであたしが、
           あんな小娘に札を渡さなくちゃいけないんだい?」





          「あ……っ、頭が――」

          「シリン!」


          シリンが千歳を軽視する発言をした直後、何か邪悪なものを感じた。
          それに従い、シリンも苦しみ出したのだ。

          花梨ちゃんが、文で教えてくれたのと同じ状況だ……。











          「君は千歳殿を否定するたび、
           自分が苦痛に襲われるのを知っているかな?」


          既に気づいているらしい翡翠さんも、そこをつく。
          だけど、シリンは未だ千歳に従うはずなんてないと言い張っている。





          「龍神の神子が憎い。

           龍神の神子さえいなければ、アクラム様は……あたしは……!
           神子、覚悟しな!」


          今シリンの目には、きっとあかねちゃんが映っているだろう。





          「待って、シリン、龍神の神子が憎いってどういうこと!?」

          「問答無用だよ!」

          「(シリンの力……このままじゃ攻撃されちゃう!)」


          シリンは頭に血が昇ってて、“神子”を攻撃することしか考えてない。

          ――これじゃ、ダメだ…………












          「花梨ちゃん、下がって!」

          「神子殿、よけたまえ!」



          ゴシャアッ!












          「――ちっ!よけたか」


          あたしと翡翠さんがほぼ同時に叫ぶと、
          花梨ちゃんもそれに従って、シリンの攻撃をなんとか避けた。





          「花梨ちゃん、大丈夫!?」

          「は、はい、なんとか」


          そっか、良かった……。





          「賢明な判断だ。
           慈悲の心も悪くはないが、今の君には成すべきことがある。

           むざむざとやられるわけにはいかないだろう」

          「次こそ、はずさないよ。覚悟しな!!」

          「だめだよ、シリン!そんなことしないで!」


          ……!

          この鈴の音と、光は…………





          「あたしの術が、消えていく……なんだい、これは?」


          攻撃しようとするシリンが放っていた邪気が、消えている。










          「白虎の力か……
           新たな神子殿の声に応じ、降臨する――より強い力が。

           これは君を守るための力。
           遠慮なく使わせてもらおう、神子殿のために」


          翡翠さんがそう言うと、続けて幸鷹さんが話し出す。





          「すべてを力で解決しようとするのは、愚かなやり方です。

           むやみに振りかざされる力は、使い手を翻弄する。
           ――今のシリンのように。

           だが、力が悪なのではない、力そのものには善悪はない。
           善悪は、人の心にしかないのだ。

           神子殿はそれを、身をもって教えてくださった」









           
牡丹ノ姫ヨ…………



          「この声は…………」


          あたしに力をくださった方の、声…………。



          
牡丹ノ姫ヨ、
        アナタモドウカ白虎ノ二人ヲ信ジテ下サイ…………



          
ソレガ、アナタニ課セラレタモノダカラ…………






          そっか……あたしも牡丹の姫として、
          八葉のみんなを、ちゃんと信じていかなくちゃいけないんだ……











          「『自分を信じる』強さ――神子殿のこの強さが、何者にも負けない力となる。
           翡翠殿、あなたの決意に私は、同じ白虎として共感します。

           そうです、私たちは、神子殿を守るために力を尽くさねばならないのです」

          「おいしいところをもっていくねぇ。
           君の考え方は、いちいち真面目で堅苦しい。

           だが、神子殿のために力を尽くすのは悪くない。――行くよ、幸鷹殿」

          「ええ、神子殿のために。行きましょう、翡翠殿」

          「二人とも……」


          ――そうだよね。

          正反対の二人だって、神子のためにと、頑張ってくれていたはず。
          “前”も、同じように。



          幸鷹さん、翡翠さん。

          あたしも、あなたたちを信じ、自分を信じ、そして花梨ちゃん……
          神子を、信じようと思います。


          ――そう思った直後、再び鈴の音が聞こえた。
          祠からまぶしいくらいの光が溢れ出し、西の札と思われるものが現れる。










          「これが、西の札……!?」


          花梨ちゃんが札の出現に驚き、そう言った。

          次いで聞こえてきたのは、
          あたしは初めて聞く大威徳明王のものらしき声。





          「よくぞここまで来た、龍神の神子、天地の白虎、そして牡丹の姫よ。
           汝らの絆を確認させてもらった。
           その心の絆の力を受けて、札に宿る力を解放しよう」


          明王様も、花梨ちゃんや白虎の二人、
          そして、あたしのことも認めてくれたんだね!





          「このあたたかい力――
           これが、大威徳明王の、西の札の力……」

          「我が言の葉、天地の白虎に託す。怨霊を……祓え。
           ……力が、吸われて…………」

          「明王様が、消えた……」


          どうやら、西の札を力を完全に使えるようするためにも、
          この怨霊を祓わなきゃ始まらないみだいだね……。

          そう思ったところで、お札を手に出来なかったシリンも逆上して、
          あたしたちに襲い掛かってきた。





          「いでよ、怨霊・人頭馬。こいつらを葬り去れ!!」




その声に応じて、あたしたちもまた、戦闘体制に入った。