力を付けてきたあたしたちが、負けるべくも無く。
          シリンが放った怨霊は、花梨ちゃんに無事封印された。





          「やった……怨霊を封じることができたんだ」

          「お見事です、神子殿。これで怨霊も救われるでしょう」

          「よくやったね。
           神子殿のために力を使う方が、怨霊も嬉しいだろう」


          パキイィィンッ!!


          そんな和やかな雰囲気になりつつあったとき、
          何かが割れたような、ものすごい音が聞こえた。





          「な、なにっ!! 今の音は!?」

          「大丈夫なんですか!?」


          花梨ちゃんとあたしは焦ったんだけど、
          白虎の二人はいたって落ち着いていた。

          そして、簡単に説明を加えてくれる。





          「ああ、心配するほどじゃない。
           京の気を分断する結界の一端が、ほころび始めた合図さ」

          「西の札を取り戻し、
           この地の呪詛の中心である怨霊を倒した結果です。

           明王からお言葉を受けておりますから、
           後できちんとご説明いたしましょう」


          そっか、大威徳明王がそこまでちゃんと説明してくれたんだ……
          さすがだよね。















          「――クッ……
           よくもあたしの邪魔をしてくれたね……」

          「シリン!」


          怨霊を封印されたシリンはというと、悔しそうに顔を歪ませている。





          「四方の札の一枚を手に入れたぐらいで、いい気になるんじゃないよ。

           千歳がここに置いた怨霊が役に立たなかっただけさ。
           あいつは本当に無能な神子だ」

          「ということは、やはり君は千歳殿のために祠を守っていたのだね」

          「あなたは、アクラムの意図とは関係なく動いているようですね」

          「――う、うるさいよ!!
           あたしはお館様のためだけに動いているんだ」


          白虎の二人に再び千歳とのことについて問い詰められると、
          シリンは吐き捨てるようにそう言ってこの場を去った。












          「……あれほどシリンはつくそうとしているのに、
           アクラムは何もしてやらないのですか」

          「やはり君は解らない。
           彼女を敵だと認識していながら、なぜ彼女に同情するんだい?」

          「私は同情などしていません」

          「ふふ、そう。ならいいよ。
           さて、これ以上ここにいても仕方ないし、帰ろう」


          その後、紫姫の館に戻って今の状況について話し合った。

          まず、例の奥義は、大威徳明王に頂いた力で使えるようになったこと。
          白虎の二人、そして花梨ちゃんがきちんと認められたということだね。



          それと、さっき言っていた“京の気を分断する結界”についてのこと。

          京の結界は、南西と北東にある二つの要によって支えられている。

          その要を維持するために四方の札――
          明王の力が枷として使われていて……

          南西の要は南の札と西の札、
          北東の要は北の札と東の札でそれぞれ抑えられているらしい。



          今日、呪詛を解いて西の札を手に入れたことで、
          南西の要を抑えていた枷が一つ外れた。

          次に南の札を手に入れれば、南西の要の枷をすべて取り除けるらしい。

          やっぱり四方の札を探していくことは、
          やらなきゃいけない重要事項ってことだね。














          「あの……その“要”っていうのはなんです?」


          確かに、“要”って簡単に言われても解りにくいかも……。





          「怨霊――京に強い恨みを持つ御霊だそうだ。

           御霊を四方の札で抑え、
           力を強めて結界の要に使っていると明王は言っていた」


          京の気を分断するためにその御霊を利用してる、ってことか……。





          「今日、京の南西に嫌な気配を感じました。
           もしや、その御霊でしょうか」

          「おそらくね。

           枷の一つ――西の札を失って、
           隠れていた御霊の気配が漏れたのだろう。

           もう一つの枷――南の札を手に入れれば、御霊は姿を現す」

          「そうすれば、倒すこともできる……ってことですよね」

          「そうだよ、


          ということは、まぁ、南の札を探したら御霊を倒す……
          っていう流れか。

          でも御霊を倒すって言っても、
          具体的にどうなるかよく解らないんだけど……。










          「御霊か……御霊のこと聞きたいんだけれど。
           その御霊を倒したらどうなるの?」


          やっぱりこれについても、花梨ちゃんもそう思っていたらしく、
          御霊についての疑問を口にした。





          「京の結界の要が消えるのですから、
           分断されていた気が通うようになるはずです」

          「そっか、京の異常を戻すためにも頑張らないといけないね。
           でも、御霊を簡単に操ったりできるものなの?」

          「どうでしょう……
           御霊より強い力を持っていれば、従えることもできると思います」


          それって……





          「平千歳、だね」

          「はい、様。千歳殿は、怨霊を操るという話でしたわね……
           そのような力でしたら、あるいは……」


          確証は無いけれど、たぶん、
          話の流れからしてそれはほぼ間違いないと思う。





          「確かに彼女は、最初に院の怨霊を取り除いたりという力を、
           発揮していました。

           怨霊を退治したのではなく、自ら怨霊を憑かせて、
           退治したふりをしたとも考えられますね」


          あ、そうかもしれない!

          怨霊を封印したり浄化したりするのは、
          白龍の神子しか出来ないみたいだし……。












          「困っているところを助けられれば、すがりたくもなる。
           取り入る策としては、単純だが効果的だ。あの白拍子の入れ知恵か」

          「それで院に取り入ったってことですか?」

          「そうかもしれないね」
 
          「可能性はあります。
           だがそうなると、あの白拍子が頑なに千歳殿を拒んだのが理解できない」


          そうなんだよね……
          あんな頑なに千歳を拒んでいるのが、不思議でならないんだけど。





          「秘密のある女性でも、魅力的だと思うがね。
           ……彼女にそれを感じるかは別として」

          「なんでもそちらに話を持っていかないでください」


          せっかく真剣に話していたのに、
          翡翠さんのその言葉で、少し話がそれちゃった気がするんですが……。 

          あたしが呆れてしばらく黙っていると、紫姫がちゃんと話を戻してくれた。





          「とにかく、次の札を探してしまわなくてはなりませんわね」

          「それについては大威徳明王がおっしゃっていました。
           『天地の朱雀と共に宇治橋へ行け』と」

          「天地の朱雀……イサトくんと、彰紋くんだよね」

          「はい。それじゃあ、二人と宇治橋へ行けばいいんですね」


          これで南の札を手に入れることが出来れば、
          南西の要を壊せるんだよね。

          よし、頑張ろう!!












          「どうぞ、二枚目の札もご立派に手になさってください。
           これから先は、自然、朱雀のお二人との行動が多くなりましょう。

           私はその間に、気になっていることを少し片づけておきます」

          「気になっていること?」

          「念のため、という程度なのですが。
           不安材料は少ないほうがいい」

          「本当に真面目だな。あとは任せて、私はのんびりさせてもらうよ」

          「無理はしないでくださいね、幸鷹さん!」

          「ええ、ありがとうございます、殿」


          幸鷹さんのしようとしていることが気にはなったけれど、
          とりあえずみんなここで解散することになった。




















          「帰ったか、

          「はい、ただいまです、勝真さん!」


          お邸に戻ると、勝真さんが出迎えてくれた。
          ご飯と共にもうお馴染みの報告タイムに突入する。





          「そうか……
           まだやるべきことは、山ほどあるってわけだな」

          「そうですね……今までも色々とやってきた気がしますが、
           まだまだ先は長いと思います」


          花梨ちゃんも、バテちゃったりしないかな……
          まぁ、とにかく、無理しないようにちゃんと見てないとダメだよね。





          「京を救うためには、急ぐべきかもしれない。
           だが、焦る必要はないと俺は思う」

          「はい……そうですね」


          勝真さんがそう言ってくれたから、
          あたしもそこで少し落ち着けた。





          「そう言ったのは、他でもないお前だからな。
           あんまり、気を張りすぎるなよ」

          「……!」


          確かに、そう言った気は、する。
          けど勝真さん、ちゃんと覚えててくれたんだな……

          少し驚いたけど、覚えててくれたことは嬉しかったから。
          あたしはそうですね、と返した。









          でも、これで一歩前進したんだものね。
          神子を、八葉を……自分を信じて、進んでいかなきゃ。







          
ソレガ、アナタニ課セラレタモノダカラ…………







あたしは、ふと、あの人の言葉を思い出した。