「それから、さん……
           あなたの存在が、僕の心を強くしてくださいました」

          「俺も、お前のおかげでカッとならずに済んだ。
           ちゃんと、状況を見据えることが出来たぜ」

          「え、あ、あたし……?」


          前と同じく、正直何もやっていないと思っていたあたしは、
          急に話をふられて間抜けな声を出してしまった。





          「花梨さんの存在、そしてさんの存在……
           お二人の存在があってこその、絆だと思うんです」

          「たぶん、片方だけじゃ駄目なんだろうな」

          「そう、なのかな?」


          いまいち解らないけれど……。





          「私もそう思います、さん。
           私だけじゃ、二人にうまく言葉をかけてあげられなかったかも」


          そうかな……
          花梨ちゃんは、ちゃんと解ってる子だと思うけど。

          でも、三人がそう言ってくれるのが嬉しかったから、 
          あたしは素直にお礼を言った。










          「皆さんのことを、信じているんです。
           でも、まだ今は僕……」

          「言えないことがある、だろ? そんなの気にしねぇよ。
           なあ、花梨、?」

          「うん」

          「全然気にしないよ」


          イサトくんの言葉に、
          当然といった風に花梨ちゃんとあたしは答えた。





          「今は言えないってことは、
           いつかは言えるかもしれないってことだろ」

          「彰紋くんが言いたくなったら、その時言えばいいよ」

          「言ってくれるなら、あたしたちはちゃんと聴くからね」

          「皆さん……ありがとうございます!」


          良かった、朱雀組も仲良くなれたみたいだね!











          「まあ、皆さん仲良くなられて、ようございましたわ。

           ところで神子様、今回明王様は、
           何かおっしゃっていなかったですか?」

          「二人が明王様からの言葉をもらっているはずだよ」

          「今教えてもらっていいかな?」


          そうして、イサトくんと彰紋くんが、
          軍荼利明王から受け取ったことを話してくれた。



          まず、京を斜めに分断する結界について。
          これは南西と北西の二箇所に、要となる部分があるらしい。

          で、今回南の札を得て支えがなくなったから、
          隠されていた結界の要が姿を見せたんだって。





          「南西に……。

           結界の要となっているのは御霊とうかがっていますが、
           まさか……」


          紫姫の言葉に、彰紋くんが頷く。





          「ええ、ご想像の通りだと思います。
           御霊がいるのは京の裏鬼門の方角、南西の長岡天満宮です」


          その御霊というのは、大臣だったにも関わらず西国に流され、
          京を祟る雷神になってしまったらしい。

          ……てか、それって菅原道真じゃないかな?
          高校の日本史の授業で、重要だって言われた場所だったな……。





          「どうか心安らかになられるよう、
           僕たちがしっかりしなければなりませんね」


          紫姫の話では、御霊を祓うということは、
          結果的にその御霊を業から解放することになるらしい。

          だから、御霊のためにも祓ってあげた方がいいみたいだ。





          「結界がなくなれば、京の陰陽の気が正しく流れ、
           時間も流れ、冬も来ましょう。頑張りましょうね、神子様、様」

          「そうだね」


          また気を引き締めていかないと。











          「結界……何のために張られているんだろう。
           それが気になるけど……。

           今は結界を壊すことに集中しよう。
           そのためにも御霊と戦わなきゃ」


          御霊と万全な状態で戦うためにもまた、五行の力を高めることになった。

          造花を使い切るまであと三日だから、
          長岡天満宮には、十二月四日に向かうことになった。





          「花梨さん、今日は本当にお疲れさまでした。
           そして、ありがとうございました。僕たちはそろそろお暇しましょう」

          「そうだね」


          あんまり長居するのも、あれだし……。





          「花梨、アクラムのことだけど。
           今日の和仁の話で、アクラムがあいつに力を与えたってのは解っただろ。
           何考えてるか解らねぇ分、やばい感じがする。

           だから、気をつけろよ。ほいほいついていくんじゃねぇぞ」


          イサトくんが、まくし立てるようにそう言った。





          「アクラムか……」


          まあ、あたしもアイツは信用すべきじゃないと思うけどね。





          「イサト殿のおっしゃる通りだと思います。お気をつけくださいませ。
           では、私たちはこれで、失礼いたします。

           今日はもうお休みくださいね」

          「またね、花梨ちゃん」

          「はい」


          さてと……











          「今日は疲れたし、早めに帰ろっと」

          「じゃあ、勝真の邸まで送ってやるよ」

          「え、いいよ、悪いし」


          その申し出は嬉しいけど、
          イサトくんだって疲れてるだろうし……。





          「いいえ、さん。僕もイサトの考えに賛成です」

          「あ、彰紋くんまで?」

          「それに、よく考えてみろよ。
           また一人で帰ったら、紫姫と花梨にしかられるぞ?」
 
          「うっ……」


          そうでした…………。





          「じゃあ……お願いしようかな」

          「はい」

          「任せとけって!」


          なんだか成り行きで、
          あたしは二人に送ってもらうことになった。




















          「それにしても、……
           お前、なんか前より強くなってねぇか?」

          「ええ、確かに……
           以前より、扇の扱いに慣れた印象を受けました」


          二人とも、よく観察してるなぁ……。





          「うん……
           実は、ちょっと扇に慣れるための特訓をしたんだよね」

          「特訓?」

          「そう、勝真さんに手伝ってもらってさ。
           攻撃する練習とか、逆に攻撃を避ける練習とかね」


          まあ、最初はちょっと危なっかしい感じだったけれど……
          それなりに使えるようにはなったよね。





          「さんは努力家なんですね」

          「そ、そうかな?」


          そんなこと言われると、ちょっと照れちゃうけど……!





          「ま、でも、前にも言ったけどあんま無茶すんなよ」

          「うん、解ってるよ」


          そんな風に三人で話しながら歩いていると、
          いつの間にか勝真さんのお邸の前まで来ていた。





          「送ってくれてありがとう、二人とも。じゃあ、またね」

          「はい、さんもゆっくりお休みください」

          「うん!
           二人もちゃんと休んでね。気をつけて帰るんだよ?」

          「言われるまでもないぜ! それじゃあな」


          そうして、イサトくんと彰紋くんも帰っていった。























          「…………と、いう感じですね」


          夕ご飯を食べながら、
          あたしは恒例となっている報告を勝真さんにした。





          「次の相手は、その御霊ってわけか……。
           一筋縄じゃいかないだろうな」

          「本当ですよね……
           その辺にいる怨霊と比べたら、かなり強いでしょうし」


          でも、花梨ちゃんや八葉のみんなだって力を付けてきてる。
          術も色々覚えてきたみたいだし、心配はないよね。











          「……あ、そういえば、あたしイサトくんと彰紋くんに
           前より扇に慣れたねって言われたんですよ!」


          自分じゃ客観的に見れないからよく解らないけれど、
          あの二人が言うなら間違いない。





          「勝真さんが特訓してくれたおかげです!」

          「そうでもないさ。
           それは、お前が頑張ったからだろ」

          「でも、やっぱり勝真さんが特訓に付き合ってくれなかったら
           出来なかったことだと思います」


          だから、ありがたいって思うんだよ。





          「そうか……良かったな」

          「はい!」


          勝真さんのその言葉に、あたしは勢いよく返事をした。










          「…………けど、あんまり強くなりすぎるなよ、


          お前が俺より強くなったら、俺が、
          お前を守ってやれなくなるから。










          「え? 何か言いましたか?」

          「……いや、何でもない」


          なんか、気になるけど……

          本人が何でもないって言うんだから、
          それ以上聞かない方がいいのかな。






とにかく、南の札を手に入れることが出来て良かったよね!