東の札を手にいれた日の、翌々日。

降三世明王のお告げに従い、花梨ちゃんと天地の玄武、
そしてあたしの四人で、北山までやって来ていた。

ここに来れば、北の札を手に入れるまでの方法が解るはずだ。










「降三世明王のお告げがある以上、
 北山で間違いないと思いますが……。

 でも、四方の札はどうして隠されているのでしょう」

「うーん……」


なんかどっかで聞いたことある気がするけど、
どうして隠されているんだっけかな……。

そんなことを考え始めたとき、突然辺りが光に包まれた。
少し慌てたあたしたちに、「金剛夜叉明王だ」と泰継さんが言う。





「北天を司る明王……」


先ほどより強い光で、一瞬辺りが見えなくなる。
次いでいつもの鈴の音がして、声が聞こえてきた。










「龍神の神子、天地の玄武、そして牡丹の姫よ。
 汝らを待っていた」

「金剛夜叉明王……ですか?」

「いかにも」


そうして金剛夜叉明王は、他の明王のときと同じように、
証を立て、絆を示すように言った。

それが出来れば、札が眠る祠までの道を開いてくれるという。





「言うまでもないが、龍神の神子、牡丹の姫……
 汝らの使命は重い。

 汝らが使命を果たせる者かどうか、
 今一度決意を聞かせてもらいたい」

「使命を果たせる者かどうか……ですか」


明王の言葉を聞き、花梨ちゃんはあたしの方に視線を向けた。

あたしは余計なことを言ったりせず、ただ、頷く。
そんなあたしに、花梨ちゃんも頷き返してくれた。





「持っている力があるなら、惜しまず頑張りたいです」

「そうだね……

 力があるのにすべきことをしないで、
 後悔するなんてこと絶対に嫌だから」


別に意味もなく強い力を振るいたいわけじゃない。
けど、その力が必要なら……

その力でこの京を救えるなら、惜しむつもりは無いよ。





「お前たちには力がある。
 力を惜しまないのは、良いことだ。それが道を開く」


進むということ、変化するということを怖れたりしない。
それが、白龍の神子……なんじゃないかな。





「その心が汝らを前に向かわせるのかもしれぬ。
 信じる者と、信じる道を開け」


それは祠への道に繋がっているであろう、と、
明王は言ってくれた。












「それで……
 私たちは、何をすればいいんでしょうか?」


本題に戻って花梨ちゃんがそう聞くと、
明王は課題について説明をしてくれた。



――天地の玄武は、二人とも既に高い霊力を秘めている。
だから、試す必要があるとすればその心のあり方らしい。


天の玄武・泉水は、心の声に耳を傾けること。
真実は常に単純なもので、それを見通す曇りなき目を持て。





「汝は一度、龍神の神子、牡丹の姫と共に
 上賀茂神社へ向かうがよい」


その後、天地の玄武、龍神の神子、牡丹の姫の四人で
再び上賀茂神社を訪れるように。



そして、地の玄武・泰継さんは魂の本質を知ること。





「汝は一度、龍神の神子、牡丹の姫と共に
 伏見稲荷へ向かうがよい」


その後、天地の玄武と龍神の神子、牡丹の姫の四人で
再び伏見稲荷を訪れよ。











「迷いには導(しるべ)がいる。龍神の神子、牡丹の姫。
 汝らは八葉の導となるがよい」

「しるべ……。
 出来るか解らないけど、頑張ってみます」

「同じく、です」

「汝らが課題をやり遂げた暁には、
 一日だけ祠への道を開こう」


明王がそう言った後、また辺りが光に包まれる。

その光がやむ直前……今までと同じで、
明王はあたしにしか聞こえないように声を掛けてきた。












「牡丹の姫よ……
 此度もまた汝に与えられし課題をこなし、証を立てるがよい」

「はい……必ず」


必ず課題をこなします、と続けて言うと、
明王は「期待している」と言い残して今度こそ去った。





「それじゃあ……
 とりあえず、上賀茂神社と伏見稲荷に行ってみようか!」


三人はあたしの言葉に頷いてくれた。




























「上賀茂神社につきましたね」

「うん」


初めは三人で向かうように、ということだったから、
泰継さんには神社の手前で待っていてもらっている。












「うーん……」


……それにしても、課題は一体なんだろう、と思っていると。

図書寮を担当しているお役人さん……らしき人が声を掛けてきた。
(ちなみに「らしき人」というのは、なんとなくそう言い切れないから)





「あなたはいったい誰なのですか?」

「私はこの姿を借りていますが、実は人ではありません。
 私は、鹿の化身なのです」


鹿の化身という事実に、花梨ちゃんが驚く。

……でも、そうか。それなら納得。





「あぁ、そうでしたか。
 道理で、纏っている気が人とは違うと思いました」


だいたい同じようなことを考えていたらしい泉水が、そう言った。

一方で花梨ちゃんは、どうして解ったのかな、
と言いたげな顔をしている。





「たぶん……

 金剛夜叉明王が言っていた『二人は高い霊力を秘めている』ってのを、
 今まさに泉水がやってみせたんだと思うんだけど」


あたしがこっそり耳打ちすると、なるほど、と花梨ちゃんも納得した。











「あなた方にお願いがあります。
 私の妻を、探して頂けないでしょうか」


数日前上賀茂神社に向かったきり、奥さんが戻らないらしい。
自分でもかなり捜したんだけれど、未だ見つからなくて。

今の姿を保てる時間も短く、すぐ山に戻らなくちゃいけないし……
そういうわけがあって、あたしたちに捜してほしいと言ってきたのだ。





「何かあったんでしょうか、見つからないなんて……。
 泉水さん、さん、どうしましょう」

「どうやらお困りのようですし、
 引き受けてさしあげてはいかがでしょうか」

「うん、あたしも賛成」


あたしたちの言葉を聞き、
お礼を言って鹿の化身はひとまず山へ戻っていった。





「でも、あの人の奥さんってどんな人かな?」

「そうですね、辺りに人影はありませんし……。
 どうでしょう、神子。もう一度、ここへ参りませんか」


殿も、いかがでしょうか。

泉水の言葉に、あたしも頷く。





「明王のお話では、
 上賀茂神社には二回来ないといけないことになってるしね。

 今度は泰継さんも一緒に、出直した方がいいってことなのかも」

「ええ」


今度は、あたしの言葉に泉水が頷いてくれた。





「じゃあ、四人揃ってもう一回ここに来てみましょう」


そうしていったん上賀茂神社での調査をやめ、
あたしたちは続いて伏見稲荷に向かうことにした。





























次にあたしたちは、伏見稲荷にやって来た。

……ちなみに今度は、泉水に伏見稲荷の手前で待ってもらっている。

きっとまた四人揃って来ることにはなるんだろうけれど、
最初は三人で行くようにってことだったし。








「金剛夜叉明王は、伏見稲荷に行くように言ったけど……
 ここでの課題は、いったい何だろう?」

「そうだね〜……」


さっきのパターンから考えると、ここでも誰かに会うのかも。

そんなことを考えていると、
案の定子どもの姿をした何かが声を掛けてきた。
(さっきの一件もあったし、人間でないことはなんとなく解った。)





「待て。この気配、人ではない……さては、狐か?
 神子にいったい何の用だ?」

「えっ、狐!?」


そっか、今度は狐だったんだ……。
さすが泰継さんだなぁ。





「へぇ、陰陽師って大したもんだな。そうさ、おいらは狐だよ。

 今日は伏見稲荷に用事があったんで、
 人間に化けて出かけてきたんだ」


どんな用事なのか聞いてみると、その狐の子は詳しく話してくれた。

なんでも、この子のお母さんがこのお社にお仕えしているんだとか。

で、久しぶりに会いに来たんだけど、
今日はお使いに出てて留守なんだって。





「残念だったね」

「うん」


だけどその子は別に落ち込むわけでもなく、
代わりに文を書いたらしい。

それで、その文を預かって代わりに届けてほしいとのことだ。





「狐のお母さんに手紙を届けてほしいって……。
 泰継さん、さん、どうしましょう」

「受ければよい。それは、明王の課題の一環だろう」

「ですね!」


そうしてあたしたちは狐の子から文を預かり、
代わりに届けると約束した。

狐の子は嬉しそうにお礼を言い、去っていった。














「でも、あの子のお母さんはいつ頃ここに戻ってくるのかな?」

「ここで待っていても、仕方ない。
 今はこれで帰って、また出直した方がいいだろう」

「もう一度、今度は四人で来なきゃいけないんですからね」


あたしがそう言うと、泰継さんが「その通りだ」と答えてくれた。





「それじゃあ、ひとまず今日は館へ戻ろうか」

「そうですね。
 泉水さんと合流して、戻りましょう」


あたしたちは、翌日また
上賀茂神社と伏見稲荷に向かうことにした。






また明日、気合いれていかないとね!