昨日、ふと心配になったので、
今日は花梨ちゃんを訪ねてみることにした。
勝真さんも、ちょうどお仕事で
一緒に出かけられないって言うしね。
「おはようございまーす!」
「まぁ、牡丹の姫様! いらっしゃいませ」
迷惑かなーって思いつつ、
大声を出して挨拶したら紫姫が迎えてくれた。
……いや、だって、インターホンとかないしね。
「おはよう、紫姫」
「おはようございます、牡丹の姫様」
うーん……
「紫姫さ、“牡丹の姫様”って言いづらくない?」
「え……?」
「もっと呼びやすい呼び方でいいよ。“”とか」
「そ、そうですか?
では、お言葉に甘えて“様”と呼ばせて頂きますわ」
あ、それでも様付けなんだ……
「少々お待ちください、神子様に
様がいらっしゃったことお伝えしてきますので」
「うん、ありがとう」
そういえば、アポなしで来ちゃったな。
まずかったかな……?
「ふん、神子は神子で力が無く、
牡丹の姫はこのように礼もわきまえない者だとは……」
何やら悪口らしきものが聞こえてきたので、後ろを振り返ってみた。
「……あぁ、兄貴の方か」
紫姫の兄、深苑が立っていた。
「つーか、黙れクソガキ」
「な、何だと……!?」
「花梨ちゃんに意地悪な奴はあたしの敵だからね。
つーわけでお前も敵なわけよ」
何言ってるかは知らないが、
意地悪ゆってるってことは分かってるんだからね!
ナメんな!!
「このような者が牡丹の姫だとは……
紫の苦労が増えるではないか!」
「おいコラ、しばくぞ」
あ、深苑が固まった。
ふふふ、いい気味だ!
「様、神子様がお呼びですわ」
「あ、わかったよ!」
ホントに紫姫は可愛いなぁ!
そんな感じで、あたしと紫姫は固まってる深苑を置いて
花梨ちゃんのもとへ向かった。
ってか紫姫、何気にひどいな……。
「あ、さん!」
「おはよう、花梨ちゃん!」
元気そうで一安心だね。
「花梨ちゃん、あれからどう?」
「はい、昨日、五人目の八葉が見つかったんです!」
「五人目?」
「なんか、院側の八葉は簡単に見つかったんですけど……
おそらく帝側にいると思われる八葉が見つからなくて」
「あ、なるほど」
そーゆー設定なんだ〜。
「でも昨日、一人見つかったんです!」
「へぇ! 良かったね!」
「はい!
翡翠さん、って言って、海賊らしいんですが……」
あぁ、翡翠さんね。知ってる知ってる!
「一歩前進だね!」
「はい!」
「神子様は、既に朱雀解放のための情報も集めてくださいました。
あとは、9月29日に大豊神社に向かうだけですわ」
おぉ、すごい!!
「よく頑張ったんだね、花梨ちゃん!!」
「い、いえ。でも、そう言ってもらえると嬉しいです」
「自信持って、花梨ちゃん!
あたしは、どんなことがあっても花梨ちゃんの味方だからね」
せっかくこの世界に来たんだし……
色々と助けになってあげたいもんね。
(今のところ全然役に立ってないし……)
「ありがとうございます、さん!!」
「どういたしまして!」
さてと!
花梨ちゃんの元気な姿見て、近況も聞けたし……
「そろそろ、あたしは帰るね」
「え! もう帰っちゃうんですか?」
「うん、ごめん……ちょっと調べたいことがあってさ」
牡丹の姫……
龍神が色々と知識をくれたけど、もっと調べたいよね。
彰紋くんに、図書寮に入れてもらえるよう頼めないかなぁ……。
「また来るね」
「は、はい! 待ってますね」
「うん!」
花梨ちゃんがこんなに頑張ってるんだもん。
あたしも、そろそろ本気で“牡丹の姫”として行動しなきゃだよね。
「様!
お一人で大丈夫なのですか……?」
「あ、平気だよ。心配しないで」
「ですが……」
「迎えも来るからさ」
「そ、そうですか、それでしたら……」
……なんて、迎えなんて来ないんだけどね。
そう言わないと、紫姫は納得しなさそうだし。
「じゃ、またね〜!」
一人で歩いてみるのも、いいかもしれない。
迷ったときは……まぁ、そのときはそのときだよ。
とりあえず、朱雀門まで行ければ
そこから勝真さんのお邸までは帰れるからね。
「朱雀門までの道を教えてもらえばいいわけだよ」
あたし一般人っぽいし、
たぶん意地悪はされないだろう……たぶん。
「…………あれ?」
なんか、賑やかだな、あそこ……。
「あ、市ってやつかな?」
お店がいっぱいある〜!
「すごーい……!」
いろんな物が売ってるよー!!
「あ、扇だ!」
いいな〜……
実は、彰紋くんの扇を見てから、欲しくなったんだよね……
…………全く使いこなせないだろうけどさ。
「でも可愛いじゃないか!」
とか、言い訳してみる。
「?」
「え?」
後ろから……?
「……あれ? 勝真さん!」
「お前、何処にでもいるよな」
「な、なんですか、それ」
神出鬼没ってことなのか……?
「何してたんだ?」
「市が開かれてたので、見学してたんですよ」
「それは……」
「扇です! 可愛いですよね〜。
彰紋くんの見て、羨ましくなっちゃって」
でも、哀しいことにお金が無いのだ……。
「欲しいのか?」
「え、えぇ、まぁ」
「じゃあ、買ってやる」
「え! で、でも」
「いいから貸せ」
なんで買ってくれたんだ!?
勝真さん、何か裏でもあるんですか!?
「ほらよ」
「あ、ありがとうございます!!」
すごい嬉しい!!
「良かったな」
「はい!!」
「……!」
大切にしよう!
「だから、その顔は反則だっつの……」
勝真さんのつぶやきは、あたしに届くことはなかった。
とにかく、扇が素敵だ!!