「……――!
 百鬼夜行が消えてない……!?」

「封印できたと思ったのに……」


四人で百鬼夜行に挑み、花梨ちゃんが封印できた……

……と思ったけれど。


どうやら一部の邪気を祓っただけで、
完全に封印するまでには至らなかったようだ。





「百鬼夜行の業すべてを、祓うことは出来ないの……!?」

「…………」


勝ったのに、終わらないなんて……










「神子に姫よ、どうした?
 百鬼夜行を祓い、京を浄化するのではなかったのか?」


動揺するあたしたちのもとへ、
アクラムの嘲笑う声が聞こえてくる。





「無理だ。動き出した滅びは京の意志、
 もう誰にも止めることは出来ぬ!」


京に対する、大きな負の感情を持ったアクラム……

そんな自分自身を捧げることで、
あいつはこの強大な百鬼夜行を作り出した。

その負の感情が強いほど、
おそらくこの百鬼夜行も強い……。










「だめ、百鬼夜行が消えない。
 京の気が急激に動き出したから……」


千歳は京の気を留めた自分の行動を後悔し……
けど、もうとめる力が無いとつぶやいた。





「……神子、まだ平気です、もう一度戦いましょう。
 次こそ、必ず……!」

「待って、泉水」

殿……?」


たぶん、あれは……





「たぶんあれは、普通に戦っただけじゃ勝てない気がする」

殿、……」


あたしの言葉に対し、泉水が言い返そうとする。
けど、先に口を開いたのは千歳だった。





「牡丹の姫の言う通りよ。あれは気を飲む……
 八葉の気も、龍神の神子の気も、牡丹の姫の気も飲む」

「……それでもっと強くなるとか?」

「そう」


ってことは、やっぱり……

普通に戦っただけじゃ勝てない相手だし、
それじゃ解決できないんだよね……。










「結局私は、何も出来なかった。
 京を救うことも、人を守ることも……」


千歳がそう言ったきり、
その場に居る全員が黙り込んでしまう。




『普通に戦っただけじゃ勝てない』




そんな相手をどうやって倒し、どうやって祓えというのか。

みんな、そう思ってしまったに違いない……
……でも。










「あたしたちは……
 まだ、諦めない…………」

……」




『明日で、全てが終わる……
 そうしたら、お前に聞いてほしいことがあるんだ』





……そうだ。
勝真さんと話をするためにも、あたしは、諦めない。


諦めるわけには……いかない…………









「…………」


あたしは、一瞬勝真さんのほうを見て……
すぐに、花梨ちゃんへと視線を向ける。





「……花梨ちゃん」

「解っています、さん」


呼びかけると、花梨ちゃんは力強く頷いてくれた。





「まだ、終われない」

「神子……
 しかしもう、私たちの力は……」


普通に戦っては勝てない相手。
ならば……選択肢は、ひとつしかない。





「終わらせたりなんかしない、諦めない。
 諦めたくなんかない!」


花梨ちゃんとあたしは本能的に、
その唯一の選択肢が何なのかを理解していた。










「私の力の全てを使えば……龍神様を呼べば、
 なんとか出来るかもしれない」

「いけません、神子!
 龍神はあなたを、力と共に飲み込んでしまうかもしれない」

「泉水さん……」

「私は嫌です。
 あなたを犠牲にしてまで守りたいものは、無いのです……!!」


泉水が必死になって花梨ちゃんを止めようとする。
けど……彼女はもう、決めたのだ。

だったら、あたしが牡丹の姫としてすることも
もう決まっている。










「龍神様を呼んだら、戻れないかもしれない」


綺麗な鈴の音が……





「でも、戻れるかもしれない。そんなこと、解らない」


……聞こえてくる。

この鈴の音は、白龍だ。





「解っているのは、このままでは京が滅びること。
 ――守れないかもしれないこと」


どんなリスクがあるかは、正直解らない。
でも花梨ちゃんは決めている……龍神を、呼ぶことを。

だったら……














「待って、花梨ちゃん」

さん……?」


本当は、一人で龍神を呼ぶなんてすごく怖いだろう。
でも……

そうまでしても京を守りたいと、花梨ちゃんは願ったんだ。





「花梨ちゃん、あたしも一緒に龍神を呼ぶよ」

「えっ……?」


厳密に言うと、
あたしに加護を与えてくれているのはあの女のひと。

でも……龍神の加護を受けている、
というのも、間違いではないはず。





「あたしにも、龍神を呼ぶ資格はあると思うよ」


あたしの呼びかけにも……応えてはくれるはずだ。





「一人じゃ危ないかもしれない……でも、二人だったら。
 あたしたちなら、出来るよ」


あたしの言葉を聞いた花梨ちゃんは、
一瞬目を丸くしたけど……





「はい、必ずできます……私たちなら」


すぐに微笑んで、言い切ってくれた。














「……おい、待ってくれ」


花梨ちゃんと共に意思を固めたところで、
勝真さんが口を開いた。





が一緒に龍神を呼んだとしても、
 それが危険なことには変わりないんだよな?」

「それは、……」

「変わらないと思います」


言いよどむ花梨ちゃんの代わりに、あたしが答えた。





「それなら、俺も泉水殿の意見に賛成だ。
 龍神を呼ぶってのには、反対する」

「勝真殿……」





「大丈夫です、勝真さん」

「だが……」


本当に、大丈夫ですから。

もう一度、勝真さんの瞳をしっかり見てそう言うけれど、
まだ不満があるという表情をしている。















「……もう!

 誰が何と言おうと、
 あたしは神子と一緒に龍神を呼びますからね!」

「おい、……!」


いい加減聞き分けてくれない勝真さんに対し、
あたしは半ばやけくそになってそんなことを言う。





「あっ!
 さん、待ってください……!」


そんなあたしに驚きつつも、
花梨ちゃんが慌てて追いかけてくる。










「神子……!」

「泉水さん……きっと、大丈夫です! 
 だって、……さんが、一緒だから……!」

「お待ちください、神子……!」

!!」


二人が必死で止めようとする声を押しのけ、
あたしたちは百鬼夜行のほうへと歩みを進める。

そして……そのすぐそばで、立ち止まった。


その一歩後ろには、紫姫に支えられている千歳の姿がある。





「あなたたちが、それを望むなら……
 私の力を、黒龍の神子の力を、あなたたちに託す」


そう言って、その力を花梨ちゃんとあたしに預けてくれる。





「千歳……」

「ありがとう、千歳」











「呼ぶよ、龍神を。
 白龍と、黒龍を。京を守るために……」

「まだ、諦めたくないから……
 あたしたちの神子の願いを叶えるため、龍神を呼ぶ」


千歳の力を受け取り、
花梨ちゃんとそう言い合った直後……

周りがものすごい光に包まれ始める。

















……!」


勝真さん……





「勝真さん、心配しないでください」


光で辺りが見えなくなる直前……
かろうじて、勝真さんの姿をとらえることが出来た。




『明日で、全てが終わる……
 そうしたら、お前に聞いてほしいことがあるんだ』





あなたの話を聞くって約束したし、それに……
あたしも、あなたに聞いてほしいことがあるから。

だから、大丈夫――…………















 俺はまだ……」




、今はまだ……』


今はまだ、このままでいい。
だけど、いつか全てが終わったときに伝えるから。





『お前のことが、好きだと……』


愛しく想っていると、必ずそう伝えるから。












「俺はまだ……お前に……
 伝えて、ないんだ……!」








――……!!