――そして、また目を開けてみると。
今度は神泉苑に戻ってきていた。










「…………――!!」


みんなが居るところとは少し離れたところに
戻ってきたらしく……

向こうのほうから、勝真さんが慌てて駆け寄ってくる。





「勝真さん……!!」


それにつられるように……
考えるより先に、あたしも駆け出した。










「勝真さっ…… ……!」


そばまで行くと、思いっきり腕を引っ張られ
ぎゅっと抱きしめられる。





「お前は本当に……
 どれだけ心配かければ気が済むんだよ……」

「そ、それは……すみません」


思い当たることがありすぎて素直に謝ると、
呆れたように勝真さんが笑う。





「ったく……
 自覚があるんだったら、少しは大人しくしろよ」

「あたしだって、
 なるべくそうしたいとは思ってるんですけど……」

「……ああ、そうだな。お前には無理そうだ」

「なっ……」


それちょっと、ひどくないですか!?





「……いや、悪い。
 お前が本当に、戻ってきてくれたんだと思うとな」


つい憎まれ口を叩いてしまう、とつぶやき、
勝真さんは腕の力を緩める。

ふいに見上げると、目が合った。










……
 お前が無事で、本当に良かった」


そう言った勝真さんは、今にも泣きそうな……
でもホッとしているような、複雑な表情をしていた。





「勝真さん…………」


こんな勝真さんは、今まで見たことがない……。

それが何だか、
すごく悪いことをしたみたいに思えて……





「あの……勝真さん……
 …………ごめん、なさい……」


思わず、謝ってしまった。





「謝るなら、最初から危ないことはしないでくれ」

「それは……
 それは、約束できません」

「なっ……」

「同じように選択をしなければならないときが、
 もしまたやって来たら……」


あたしは、自分が
「こうしたい」と思うほうを選ぶだろう。

でも、それが危ないことじゃないとは……
きっと、言い切れないだろうから。










「……そうだった。
 お前は、そういうやつだよな」

「勝真さん、あの、」

、俺はな」


あたしの言葉を遮って、勝真さんは言う。





「お前がそういうやつだから……
 俺はお前に惹かれたんだ」


お前がそういうやつだからこそ……
俺は、お前を好きになった。





「え……」

「俺は、お前のことが好きなんだ……
 ……もう、ずっと前から」


うそ……










「全てが終わったら……
 聞いてほしいことがあると、言っただろう?」

「は、はい」


確かに昨日、そう言われた、けど……





「本当は……
 船岡山に行ったときに、伝えるつもりだったんだが」




『…………悪い。
 やっぱり、また後で聞いてくれないか』




もしかして……

あのとき、
すごく言いにくそうにしていた……?










「やはり全てが終わって落ち着いてから、
 お前に伝えようと……あのときは思っていた」

「…………」

「だが、お前が花梨と二人で龍神を呼んだとき……
 死ぬほど後悔したんだ。

 どうしてもっと早く伝えなかったんだ、ってな」


勝真さん……。





「どちらにせよ、結果的にお前を驚かせただろうが……

 改めて言わせてくれ。
 、俺は……お前のことが好きなんだ」

「勝真、さんっ……」


あたし……
あたし、は…………










「かつざね、さん……」

「お、おい、……!」


思わず泣き出してしまったあたしを見て、
勝真さんが慌てている。





「かつざね、さん……
 あたしもっ……あたしも、好き、ですっ……」

「え……?」

「あなたの、ことが……すき、なんですっ……」


あたしも、ずっと……
ずっとあなたのことが、好きだった。





「あ、たしも……
 今日、全てが、終わったら……伝え、ようと……」

「…………」


先ほど慌てていた勝真さんは、
今度は驚いたまま固まってしまっていて……

あたしはそれがおかしくて、
まだ少し涙を流しながらも笑ってしまった。










「お、おい、笑うな!」

「ご、めんなさい……
 でも、かつざねさんが……」

「くそっ……
 と、とにかく! お前は、そうして笑っていてくれ」


――俺はお前の涙には、弱いんだからな。

そう言いながら、
勝真さんは指でそっと涙をぬぐってくれる。





「勝真さん……」

「……ありがとな、
 お前のその気持ちが、俺は何よりも嬉しい」

「あ、……あたしもです!
 あたしも、嬉しい……です……」


好きだと言ってくれた、その言葉が……
何よりも嬉しかった。

ありがとう、勝真さん――…………




























「…………さん!」


その声にハッとなって、顔を上げると……

少し離れたところに、花梨ちゃんの……
花梨ちゃんと泉水の姿が見えた。





「花梨ちゃん! 泉水!」


無事だったんだね!

あたしはそう言いいながら、二人のもとへ駆け寄る。





「はい! 私も無ちゃんと戻ってこれて……
 他の八葉のみんな、紫姫に千歳、深苑くんも無事です」

「そっか、良かった……」


思わずホッと胸をなでおろす。
そのときふと、花梨ちゃんの手元に気が付いた。

――隣に居る泉水と、しっかりと手を繋いでいる。
そのことで、あたしはおおよその状況を把握できた。










「花梨ちゃん……泉水も、良かったね」

「はい……さんも!」

「うん!」


泉水のほうに視線を向けると、笑顔で頷いてくれた。





「まぁ、何にせよ……ひとまずは終わったな」

「そうですね!」


同じくこちらにやって来てそう言った勝真さんに、
あたしは勢いよく返事をした。















さん、私……
 この世界に、残ろうと思います」


こちらに向き直った花梨ちゃんがふいに言う。





「私の願いは、泉水さんのそばに居ること。
 泉水さんも……それを願ってくれました」


そしてその願いを、龍神様が叶えてくれた。





「私はこの世界に残って、
 泉水さんと一緒に進んでいこうと思います」


そう言った花梨ちゃんは、揺るぎない瞳をしている。

――前に進むことを怖れず、立ち向かう意志。
それこそがきっと、この子が白龍の神子たる所以なんだ。


花梨ちゃんに頷き返しながらも、
あたしはそんなことを考えていた。











「花梨ちゃん……今まで本当にありがとう。
 あなたという神子と一緒に、がんばってこれて良かった」

「そんな……!
 私のほうこそ、さんには助けてもらってばかりで……」

「そんなことないよ」

「そんなことありますよ!」


軽く謙遜しただけのつもりが、
花梨ちゃんは全力で返してきて……





「あ、ありがとう、花梨ちゃん」


その勢いに押されつつも、あたしは素直にお礼を言った。














「神子様、様……
 私からも、改めてお礼をいたしますわ。

 これまで京のために尽力してくださり……
 本当にありがとうございます」

「でも、紫姫にもたくさん助けてもらったよ」

「そうだよ、紫姫!
 みんなで一緒にがんばってきたから、ここまでこれたんだし」

「神子様、様……」


紫姫は、あたしたちの言葉に感極まってしまったらしく
少し涙目になっていたけど……





「ありがとうございます!」


そう言って、年相応な明るい笑顔を見せてくれた。







 















「それで、あの……
 さんは、どうするんですか?」


――みんなの話がひと段落して。
花梨ちゃんが遠慮がちに問いかけてくる。





「あたしは……」


「どうするか」っていうのは、つまり……
この世界に残るかどうか、ってことだろう。








『最後くらいは、あなた自身のために、
 あなたの進みたい道を行きなさい』







あたしの願いは……
きっと、あのひとが叶えてくれるから。







「花梨ちゃん、あたしはね――…………」