その学園が設立されたのは、つい最近のこと。
今年度の偏差値は決して低くはなく、入学試験も難関だと噂されていた。
だが、それでも入学を希望する生徒が後を絶たないのである。
……いったい何故なのか。
外部にはその理由が全く解らないのだが、内部から見ればそれは明らかだった。
私立薄桜鬼学園 一時間目――私立薄桜鬼学園
「いやぁ、今年もいいスタートを切れたなぁ。 なぁ、トシ?」
「……そうだな」
「それに生徒会役員は、我々の顔馴染みの面々が担っている。
これは期待できそうだ。
会長としても最上級生としても、頼むぞくん」
「…………ご期待に添えるよう、努めていくつもりです」
「失礼しました」
週に一度、学園の柱とも言える学園長や理事長と放課後に会談をするのが、
あたしの生徒会長としての、仕事の一つだ。
今日もそれを終え、あたしは自分の仕事に戻るため生徒会室に向かっていた。
「相変わらず学園長先生は豪快な人だなぁ……」
まぁ、そこがあの人の魅力なんだけど、なんて
今さら解りきっていることを考えた。
――――……ここは、私立薄桜鬼学園。
設立されたのは、三年前……つまり、あたしが中学三年生の頃。
入学試験に合格したあたしは、晴れてこの薄桜鬼学園に通うことになった。
あたしたちの学年が、学園初の生徒だったのだ。
設立されたばかりの学園だからなのか、
初年度の入学試験はあまり難しいものではなかった……と思う。
しかし、次年度には入学希望者が殺到し、
かなり難しい入学試験が実施されたのだという。
では、何故この学園の人気がそんな急激に高まったのか。
それは、ここの理事長と初年度の生徒に理由があると、あたしは思っている。
「おっ、!」
「学園長や理事長との会談、終わったのか? お疲れさん」
「うん」
廊下でばったり会ったのは、
学園の人気が高まった理由になっている人物のうち・二人。
初年度生徒で生徒会・会計の永倉新八と原田左之助。
「新八と左之はこんなところで何やってんの? 仕事は?」
「仕事なら終わったよ」
「今は斎藤にチェックしてもらっている最中でな。んで、俺たちは休憩」
「そうなんだ」
二人のことだから仕事をさぼったのかと思ったけど、
どうやらやるべき事はやってくれたらしい。
……まあ、やるときはやる人間だって知っているけどね。
ちなみに、左之が言った“斎藤”とは、会計監査を担う人物の名前である。
「じゃ、あたしは生徒会室に戻るから」
「おー」
「休憩も適当なところで切り上げて、ちゃんと戻ってきてね」
「了解」
そのまま逃げないように釘を刺し、あたしはまた目的地へと足を進めた。
「今日は、大した仕事は残ってないよね……早く帰れそうかな」
あたしがそうつぶやき、生徒会室の扉に手をかけた、そのときだった。
「あぁ、近藤さんや土方さんとの会談終わったんだね、」
どこからか、声がした。
それはとても聞き慣れている、でもあまり聞きたくないような、そんな声だった。
「お帰り」
「…………ただいま」
“お帰り”と言って至極楽しそうに笑みを浮かべているこの男、
この男もまた学園の人気が高まった理由になっている人物の一人だ。
名前は沖田総司、初年度生徒で生徒会・副会長を担っている。
「……なんで総司が生徒会室の外に居るの? 仕事は?」
「仕事はもちろん終わってないよ」
「もちろんじゃないでしょ、ちょっと」
「だって、副会長ってなんか会長の補佐とか言って地味だし、
僕ちょっとやる気なくしちゃってさ〜」
新八と左之は、やるときはやる。
だが、総司がやるべきときすら、仕事をさぼるのだ。
そんな総司に、あたしもほとほと手を焼いている。
「……あんまりさぼると、学園長や理事長に言い付けるよ」
「え、ちょっと、それはずるいんじゃないかな」
「だったら四の五の言わずに仕事やれ」
「ったく、は横暴だなぁ……」
あんたにだけは言われたくない、と思ったがあえて口にしなかった。
面倒なことになるのはごめんだしね。
――で、結局“学園の人気が高まった理由”が何なのかというと……
初年度生徒の永倉新八、原田左之助、沖田総司、
それから先ほど会談した理事長である土方歳三が、
とてつもなく見目麗しいのだ。
そんな風にいわゆる“いい男”揃いの高校だから、
女子中学生がこぞって通いたがった。
必然と学園の人気、そして倍率も高くなり、
入学試験が難しくなっていった……というわけなのである。
「ある意味、あたしは運が良かったのかも……」
倍率が上がる前に入学したのだから。
……だがしかし、人気の理由は理事長、
総司、新八、左之に留まらなかった。
次年度に入学してきた生徒にも、これまた見目麗しい生徒が居た。
そのおかげか、三年目の人気も倍率もさらに上がっていった。
「おー、お帰り、さん」
「ただいま、平助。
一人で仕事させちゃってごめんね、今、総司も連れてきたから」
「はは、大丈夫だって。総司にやってもらう分も取ってあるし」
「平助、それ要らぬ気遣いなんだけど……」
総司がげんなりしているが、元はといえば仕事をさぼった総司の方が悪い。
「じゃ、これ頼むな、総司」
「その前に、平助……君って、後輩だよね? なんでそんな態度なの?」
「いいじゃん、別に。あたしは先輩だって祀り上げられる方が面倒だし」
「は変わってるからね」
「何か言った?」
「何も」
ったく、この男は……。
「さんの分は、オレが出来る範囲でやっといたから。
今日は早く帰れると思うぜ」
「ほんと? ありがとう、平助」
「へへっ」
そう言って無邪気に笑い、先輩である総司にも怯むことなく接している彼は、
藤堂平助と言って、次年度生徒でありもう一人の生徒会・副会長である。
平助にはまだ幼さが残っているが、
それでももてるのだろうことは簡単に予想できる。
「……会長、会計が出した予算案の確認が出来ました」
「早いね、一。 新八と左之、さっき終わらせたばっかりでしょ」
「集中して取り組めば、すぐに終わることです」
「そっか……まぁ、何にしてもご苦労さま」
そして、彼が先ほど左之との話に出ていた斎藤一。
生徒会・会計監査を担っていて、彼も平助と同じ次年度生徒。
これもまた見目麗しく、女子生徒が騒いでいるのをよく見かける。
…………と、ここまで紹介した人物たちのおかげで、
主に女子生徒の入学希望者数が高くなっていったというわけだ。
「先輩、お茶が入りましたよ」
「あ、ありがとう、千鶴」
そして、次年度では落ち込みを見せていた男子生徒の入学希望が高まったのは、
彼女の影響であったと言い切っても過言ではない。
「平助君、斎藤さんもどうぞ」
「ありがとな、千鶴」
「すまない」
彼女は次年度生徒の雪村千鶴。
生徒会・書記であり、よく気が回るためか様々な仕事をしてくれている。
そして、彼女もまた見目麗しいのであった。
「ちょっと待ってよ、千鶴ちゃん。僕の分は?」
「沖田先輩は、お仕事をさぼったからお預けです」
「ひどいなぁ」
「でも、沖田先輩には厳しく接するようにって先輩に言われてますから」
「って、君のせいじゃない、」
総司が恨むような視線を向けてきたが、あたしは軽く流した。
ガラッ
「よーし、仕事再開すっぞ〜」
ふと、そんなとき、新八と左之が休憩から戻ってきた。
「待たせたな」
「そこまで待ってから大丈夫。お疲れさま」
左之の言葉に対し、あたしは思ったことを答えただけなのだが、
それが満足だったのか、左之は新八と共に笑ってみせた。
「じゃあ、みんな……今日もこの七人で頑張ろうね」
「はい!」
「おー!」
あたしの言葉に対し、千鶴と平助が同時に元気よく返事をしてくれた。
…………これが、あたしの通う薄桜鬼学園の実態と、
その学園を支える生徒会の面々なのである。
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