「忍人さん! こんな所にいたんですね」

          「ニノ姫……俺に何か用か?」

          「ええ、兵の編成について少し相談したくて」

          「そうか」


          …………。










          「忍人とニノ姫、か……」


          初めは相容れないと言える様子だったというのに、
          いつからだろう、二人が打ち解け始めたのは。


          互いが互いを信頼し合っていて、とても絵になる……。
          あたしから見ても、お似合いの二人。




















          『忍人、勝負だよ!』

          『受けて立とう』




          『忍人とはまたやってんのか〜?』

          『仕方ないよ、羽張彦。二人とも負けず嫌いだし』

          『毎回手合わせをしては引き分けるというのに、
           それでも決着を付けたがるのですよ、あの二人は』




          『あーもうっ! また引き分け!?』

          『納得がいかない。、もう一度手合わせ願おう』

          『臨むところ!』







          『お前ら、いい加減にしろって〜。
           いっつも引き分けなのは、お前らの力が五分だからだろ?』

          『同じ力を持つ人が近くにいるのはいいことだよ。
           切磋琢磨して強くなっていけるし』

          『風早の言う通りです。

           それに、これ以上続けたら明日に疲れが残りますよ。
           もうおやめなさい』




          『だけど!』

          『、そろそろ飯の時間だし、今日はお開きにしようぜ?』

          『じゃあ羽張彦が相手になってよー!』

          『そりゃ聞けない相談だな。
           俺は腹が減ってるから、飯食いに行くぜ』

          『羽張彦の意地悪〜!』





          『ま、そんなに怒るなって。今日の夕飯はお前の好きな猪鍋だからさ』

          『えっ、ほんと!?』

          『先生が、自分が食べたくて獲ってきたみたいだよ』

          『やったー! 師君、最高!!
           じゃあ、あたし今日の鍛錬はここまでにする〜!』

          『なっ…! まだ決着が付いてないぞ!!』





          『今日はもう終わりにする! だって夕飯が猪鍋なんだもん♪』

          『っ!』

          『ねぇ、羽張彦! 早く行こうよー!』

          『わかったわかった。けど、走ってくと転ぶぞ〜』

          『大丈夫だよー!!』


















          ふふ……
          師君のもとで、みんなで修行してたときも楽しかったな……。












          「……?」

          「あ、風早……」

          「どうかしたの?」

          「うん……
           ちょっと、師君のもとで修行してたときのこと、思い出してた」
  

          あのときは、こんな風に戦の先陣を切っていくなんて
          想像もしなかったな……。
          (もちろん、戦になっても戦力になれるように修行してたんだけど……)





          「は、いつも忍人と手合わせしていたよね」

          「うん。自分でも、馬鹿の一つ覚えみたいだったなって思うよ」

          「二人は勝負し始めたらなかなか終わらないからね。
           俺たちだって、止めるのに必死だったんだよ?」

          「あはは、ごめんなさい」


          ほんと懐かしいな……。





          「……けど、なんだかんだで
           羽張彦に上手く言いくるめられてた気がする〜」
 
          「そうだね、羽張彦は俺や柊よりもの扱いを心得てたから」

          「だよねー」


          それに、思い出せば羽張彦が一番
          あたしの修行に付き合ってくれてた気がする。

          忍人に勝つために修行する!って、
          あたしってば、けっこう我侭言ってたのになぁ――……

























          「……――ではとも相談してみよう」

          「ええ、お願いしますね、忍人さん」


          そうしてニノ姫は去っていった。
          さて……





          「は……」















          「そうだね、羽張彦は俺や柊よりもの扱いを心得てたから」

          「だよねー」


          あんなところに……一緒に居るのは、風早か。






          「ちょうど良かった、……」





          「あたし、きっと羽張彦のことが好きだったんだと思う」


          ……!





          「が……羽張彦のことを………?」


          なっ、何を動揺しているんだ、俺は……
          それに、羽張彦はもう……


          …………。










          「……出直そう」


          何やら風早と楽しそうに話していると思ったが、
          それがまさか想い人の話で……

          その相手が羽張彦だったなんて………。

























          「あたし、きっと羽張彦のことが好きだったんだと思う」

          「へぇ、初耳だなぁ。俺はてっきり、は忍人のことが……」

          「ななな、何言ってるの、風早!!」

          「ははは」


          やっぱりというか、この兄弟子は本当に侮れない……!!
          (柊もだけどね!!)





          「……羽張彦のことは、お兄ちゃんみたいで好きだってこと」

          「まぁ、確かに君たちは周りから見ればそんな感じだったかな。
           じゃあ、忍人は?」

          「………忍人は男の人として好きだもん」

          「そっか、やっぱりそうなんだね」


          お見通しってことですか、もう……。










          「忍人には言わないの?」

          「……言わない」

          「どうして?」

          「…………」


          だって……





          「だって、忍人……ニノ姫といるとき、
           すごく楽しそうなんだもん……」


          あたしなんかより、ニノ姫と一緒にいる方がいいんだろうな……





          「あたしは可愛くなければ、頭も良くないし、
           剣の強さだって忍人と同じ……

           ……ううん、きっと、もう敵わないと思う」


          最近は全く手合わせしてないけれど、解るの。
          きっともう忍人と引き分けになること、まして勝つことなど絶対に無い。

          忍人が二刀流の剣技を習得したとき、それを悟った……。










          「あたしは、いいとこなしだもん……
           それに比べて、ニノ姫は可愛いし聡明だし」


          あたしより年下なのに、しっかりしてるしね……





          「……だから、言わない。
           逃げてるって解ってる、けど……あたしは怖いの………」


          すごく怖い。
          気持ちを伝えたあとの、忍人の言葉が。















          「……そっか。
           まぁ、俺も無理強いする気はないから深刻に考えないでね、

          「うん……」
 
          「けど、。一つだけ」

          「……?」




          「後悔だけはしないようにね」



          ……!



          後悔……だけは………?









          「……実はね、羽張彦が国を出た日の前日、
           俺に伝言を頼んだんだ」

          「伝言……?」

          「うん」


















          『なぁ、風早。頼みがある』

          『何だい?』

          『のことなんだけどよ』

          『の……?』



          『もし、が忍人に想いを伝えるか迷っているようだったら、
           言ってやってくれ。

          “後悔だけはしないようにな”……って』






          『……うん、解ったよ、羽張彦』

          『悪いな。柊とどっちに頼むかって考えたら、
           風早の方が良さそうだったから』

          『柊だって、ちゃんと伝えてくれると思うよ?』

          『あいつはときどき、すっげー意地悪だからな。
           お前の方が信用できる』

          『あはは、確かに柊にはそういうところもあるね』


















          「そうだったんだ……」


          羽張彦が……。





          「それから最後にもう一つ言ってたよ」

          「……?」

          「
『血は繋がってないが、は俺の大切な妹だからな。
            面倒見てやってくれ』



          ……!





          「いも、うと……?」

          「うん。が羽張彦のこと兄のように慕ってたのと同じで、
           羽張彦ものこと妹のように想ってたんだね」

          「そ、っか……」


          なんだか嬉しいな……
          国を出る直前まで、あたしの心配してくれてたなんて……。















          「……風早」

          「何だい?」

          「あたし、忍人に伝えるよ」

          「本当?」

          「うん!」


          けど、それは今じゃない。





          「この戦に決着が付いたら……そのときに言うことにする」

          「……早くしないと恋敵が現れちゃうかもしれないよ?」

          「ふふ、恋敵ならもういるよ。
           ニノ姫様っていう、とっても可愛らしい恋敵が」

          「……」


          もし今伝えて、立ち直れそうもないこと言われたら
          あたしは戦に集中できなくなるだろう。

          でも、そんなの嫌だから。足手まといなんてごめんだから……


          だから、全てに決着が付いたときに、伝えるの……。






          「風早、色々と聴いてくれてありがとう」

          「俺は大したことしてないよ」
 
          「ううん、充分だよ。それに……」

          「……?」

          「羽張彦にも、感謝しないとね……」

          「……そうだね」


          ありがとう、羽張彦。

          あたしも、血が繋がってなくとも
          あなたのことお兄さんだと思ってるよ……。















          「……じゃ、あたし、ちょっと鍛錬に行ってくる!」

          「うん、気をつけてね」

          「解ってるよー!」


          タタッ







          +++










          「うん、気をつけてね」

          「解ってるよー!」








          「……」


          かなり消極的になってるな……。





          「……、羽張彦の伝言には続きがあるんだよ」










          『もし、が忍人に想いを伝えるか迷っているようだったら、
            言ってやってくれ。

          “後悔だけはしないようにな”……って。


          言えば絶対上手くいくんだしよ』









          「そうだよ、。そんなに心配することないよ……」


          忍人もきっと、同じ気持ちなんだから………