「おい総悟、見回り行くぞ」

「へ〜い」

「気の抜ける返事すんじゃねェよ」

「コレは、俺にとってはやる気満々の返事ですぜィ」

「ほ〜う、ずいぶんなやる気だなァ?」





「はぁ……」


そんなやり取りをする二人の声を聞きながら、
私はため息をついた。





――最近よく考えるのだ。

私はどうしてここに居るのだろう、と。










「行ってらっしゃい、土方さん、総悟くん」

「おう」

も土方さんに押し付けられた書類、頑張ってくだせェ」

「押し付けてねェよ!」


二人のそばに行って声を掛けると。
相川らず漫才みたいな楽しいやり取りを見せてくれる。





「ふふ、総悟くんもサボらないでね?」

「まァ、に言われちゃあ仕方ないですねィ」

に言われなくてもサボるんじゃねェよ」

「土方さんがうるさいんで、そろそろ行きまさァ」


土方さんへの返事もそこそこに、
さっさと歩き出してしまう総悟くん。





「テメッ、総悟!
 誰のせいでこんなにガミガミ言ってると……

 っておい! 先行くなァァァ!!!


もう向こうのほうに居る総悟くんを、
土方さんは慌てて追いかけていった。










「……はぁ」


私は女だけど、真選組で隊士をしている。

女中と違って人を斬ることもあるし、
過激な攘夷志士を捕らえたり……

危険な現場で仕事をすることは、少なくない。





「…………」


人を斬るのが怖いわけではないけれど、
どうにも失敗ばかりしてしまう。





、危ねェ!!』

『……!?』



この間も、背後の敵に気づかなくて……

もう少しで斬られそうになっていたのを、
土方さんに助けてもらったのだ。





『クソッ!』


私を助けた後、土方さんが背後から狙われた。
土方さんは自分で難なくかわしていたけれど、でも……





「でも、私は……護られてしまった」


護られたことが嫌だったんじゃない……
ただ、情けなかった。

私だって、剣術の腕を見込まれて入隊したのに。
あんな風に護られるなんて。










「土方さんの次にまた……
 他の誰かに、迷惑をかけるかもしれない」


あの人に……
総悟くんにまで、迷惑をかけてしまったら……。





「現状で私は、ただの役立たずだ」


役立たずで、それでいて足手まとい。


書類の整理なんて誰にだって出来るし……

これぐらいしか出来ない私は、足手まといでしかない。










「……頃合いなのかもしれない」


ここを出よう。


誰にも言わずに出ていくのは、心苦しいけれど。

でも、もう足手まといには なりなくないから――……




















「ふう……」


あれから簡単に荷物をまとめて。

近藤さんの部屋に除隊届を残し、自室に隊服を置いて出てきた。
今いるのは屯所から少し離れた公園だ。





「近くだと、遭遇する可能性も高いし」


見回りしている土方さんや、総悟くん。
彼らに会ってしまうかもしれない。





「総悟くんにだけは……会いたくないな」


私は、彼のことが好きだから。
一方的にとはいえ、こんな状態で会うのは気まずい。










「……さてと」


そろそろ移動しよう。

距離がある場所とはいえ、
誰にも会わないとは言いきれないし。


そんなことを考えながら、私はまた歩き出した。















「すっかり暗くなっちゃった」


今日の宿はどうしようか、なんて考え始めたとき。
ふいに、背後に気配を感じた。





「…………」


割と遅い時間のはずだけど、
こんなところを歩いているなんて……

……いや、それを言ったら私もそうなんだけど。
でも私には……事情があるから。










「…………」


脱線しかけた意識を、背後に戻す。

もしかすると、暗躍している攘夷志士か、
それとも通り魔か……


どちらにしろ、襲われたら斬るしかない。

幸い、と言うべきなのだろうか。
刀は持ってきていた。





「…………」


背後から近づく気配に、戦闘体制をとる。

振り返って、一気に距離を詰めようとすると……





「……!」


振り返って、初めて気づいた。





「総悟、くん……?」


そこにいたのは、他でもない総悟くんだった。










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