「、危ねぇ!!」
「……!!」
ある宿屋にて、毎夜攘夷浪士による会合が開かれている。
その情報を得た私たちは、その夜さっそく討ち入りすることになった。
そして、その討ち入りの際に。
一人の浪士を相手にしていた私は、
背後から近づくもう一人の浪士に気付けなかった。
それをいち早く察してくれた永倉組長が私をかばってくれたため、
私は無傷で済んだのだ。
だけど、永倉組長は……。
「命に別状はありませんが、かなりひどい怪我ですね」
そう言うと共に、山南総長は私を見る。
言葉には出していないが、その目が私を咎めていることは明らかだ。
「…………申し訳、ありませんでした」
それだけを言って、私は永倉組長が横たわるその部屋を出た。
「討ち入りのとき、背後を狙われたんだってよ」
「で、避けられなくて永倉組長がかばったんだとか」
屯所のあちこちで、隊士により永倉組長のことが……
……否、私のことが話されていた。
廊下を歩いている私の姿は見えているはずなのに、
わざと聞こえるように話しているらしい。
「やっぱりあんな細っこい野郎には、新選組隊士は無理だったんじゃねぇのか?」
「確かに、見た目からして力なさそうだしな」
隊士たちの会話を聞いて、私は入隊したての頃を思い出した。
二年前
『申し訳ありませんが、局長殿か副長殿はいらっしゃいませんか』
ちょうど屯所に入ろうとしていた隊士に、私は声を掛けた。
だが、その隊士は怪訝そうな顔をして私を見る。
『……なんか二人に用でもあんの?』
『はい……大切な用があります。
いらっしゃるのなら、案内して頂けませんか』
その隊士は相変わらず怪訝そうな顔をしたままだったが、
私の言葉から何か読み取ったのか、
しぶしぶ二人のもとへと案内してくれた。
……その隊士が藤堂組長だったというのは、また別の話だ。
ともかく、私は二人の居る部屋へと通された。
『平助、そいつはなんだ』
鋭い目をした男性が、私を見つめながら言う。
このただならぬ雰囲気からして、この男性が鬼の副長――土方歳三だろう。
必然的に、隣に居る優しそうな男性が近藤局長ということになる。
『それがさ……こいつ、近藤さんと土方さんに用があるって』
『だからってよく解んねぇ奴をほいほい屯所に入れるなよ』
『いや、だって……大切な用だって言うからさ』
副長の厳しい言葉にたじろぐ藤堂組長であったが、
一応は話を聞いてみてほしいと副長に頼んでくれた。
『……解った、お前がそこまで言うなら話だけは聞く』
話を聞くだけ聞いて私の要求に応じてもらえないのならば、全く意味がない。
だが、応じてもらうためにも、まずは話を聞いてもらわなければどうしようもないのだ。
ひとまずの難関を越えた私は、副長の言葉を受けて話し出した。
『局長殿、副長殿……単刀直入にお願い致します。
私を、新選組に入れてください』
『何だと?』
私の言葉で眉間の皺を深くした副長。
その隣で、局長がまあまあと彼を宥めた。
『まあ落ち着け、トシ。話は聞くって言ったんだからな』
『近藤さん……』
何か言いたそうな副長だったが、局長に言われた手前なのか
出かかった言葉を飲み込んでいたようだった。
『それで……君は、どうして新選組に入りたいんだ?』
局長の問いに、私は少し間を空けて答えた。
『…………私には、やりたいことがあるのです』
『やりたいことだと?』
『はい』
『新選組でなければ駄目なのか?』
『……はい』
二人からの問いかけに対し、私は淡々と答えていく。
だけど、その決意は生半可なものではない。
それを、二人に解ってほしい。
……否、解ってもらわねばならないのだ。
そう思った私は、余計なことは言わずに二人の目をじっと見つめた。
『……その目からして、冗談で言ってるわけじゃないんだろう』
だが、と副長は言葉を続ける。
『だからと言ってお前を入隊させるかは別の話だ』
『……何故ですか』
私がそう問いかけると、副長は言った。
『女のお前が新選組でやりたいことがあるなんて、
どう考えたっておかしいだろ』
副長のその言葉に驚いたのは、私だけではなかった。
ずっと隣で話を聴いていた藤堂組長も、
近藤局長も目を見開いている。
完璧に化けたつもりだったのに、やはりこの人の目は誤魔化せなかったか……
私は心の中でそう思いながら、副長を見る。
『女って……土方さん、こいつ女なのかよ!?』
『どう見たって女だろ』
『そ、そうなのか?俺にはよく解らんが……』
焦る二人とは対照的に、冷静な副長はもう一度私に問いかける。
『何が目的だ?』
目的など、一つしかない。
『私は、恩を返したい。それだけです』
『何の恩だ』
『それは話せません』
一向に詳細を話そうとしない私に、副長の言葉は怒りを含んでいく。
『詳しい説明も出来ねぇってのに、新選組に入れろだぁ?
甘っちょろいこと言ってんじゃねぇよ』
それは最もなことだ。
だけど、私もここで全て話してしまうわけにはいかない。
『今、お話しすることは出来ません……
ですが、私の決意は生半可なものではないのです』
甘えた考えをしているわけでもないのだ。
『どうか、お願い致します。
私はここで、どうしてもやりたいことがあるのです』
頭を下げて、私はもう一度入隊させてほしいと頼んだ。
しばらく沈黙が続いた後、副長が「顔を上げろ」と言うので
私は言葉の通りに従った。
『……お前の決意は解った。とりあえず入隊を認める』
『副長殿……』
『だが、少しでも妙なことがあればすぐに追い出すからな』
『…………承知しました、ありがとうございます』
副長の言葉に、私はもう一度頭を下げた。
『まあ、これからよろしくな、ええと……』
『と申します、局長』
『ああ、くんか。よろしく頼む』
『はい』
その後、土方副長により私は幹部の面々に紹介され、
彼らには、私が女であることも同時に説明された。
『、お前には二番組に入ってもらう』
『承知しました』
『新八、頼んだぞ』
『お、おう!
よろしくな、』
『はい、よろしくお願い致します、永倉組長』
――――やっと、会えた。
私が新選組に入りたかったのは、この人が居るからだ。
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