『…………』
『……!』
背後から、私を呼ぶ声がした。
『お母様!』
お母様の声だ。
『、あなた……こんなに、強かった、のね…………』
『お母様……!』
握っていた刀を投げ捨て、苦しそうなお母様を抱き起こす。
『剣術を……習っていたの……?』
『うん……小さい頃、お母様が教えてくれた試衛館があるでしょう?
そこの人に、教えてもらっていたの』
十年も前から、ずっと。
『そう……だから、なのね…………』
『え……?』
困惑する私に、お母様は優しく微笑みながら言った。
『最近のあなた……すごく、強くなったな、って……』
『それは……』
『刀が使えるって……こと、じゃない……
あなたの心が、すごく……強くなったな、って……』
お母様…………
『きっと……その、剣術を、教えてくれた人の……おかげ、なのね……』
『うん……私が強くなったというのなら、そうかもしれない……』
『ふふ……感謝、しなくちゃね……』
本当はがお世話になってます、って、
私も挨拶に行くべきなのだろうけれど、とお母様は言う。
『ごめん、なさい……もう、ご挨拶にも……行け、ない……』
『大丈夫よ、あの人はそんなの気にしないから……
それよりお母様、もう話さないで……!』
だけど、お母様は言葉を続ける。
『……その人が教えてくれたものは……
あなたの命を、守った……』
だから、大切にしなさい。
『お母様…………!!』
嫌だ、行かないで…………!
『さよ、なら………………
私の、大切な、娘…………』
『お母様!お母様!!』
目を閉じたお母様は、二度と私の呼びかけには応えなかった。
大切にしなさい
『お母様…………』
お母様の言う通りだ。
剣術を学んでいた私は、人斬り騒動の中、生き延びることが出来た。
私の命を護ってくれたのは、あの人…………
『新八さん…………』
感謝、しなくちゃね……
『感謝……』
『よし、!稽古始めるぞ!』
私を護ってくれたあの人に、感謝をしなくてはいけない。
『…………いや、感謝ならもうしきれないほどしている』
私はあの人に、たくさんのものをもらった。
……剣術だけではなくて。
だけど私は、それを何ひとつ返せていないのではないか。
そうして色々と考えた私は、一つの結論に辿り着いた。
『…………恩を、返さなければ』
あの人に、この恩を返さなければならない。
それが、私のやるべきことだ。
『…………お母様、私は京に向かいます』
京に上り、あの人のそばで、あの人のために生きます。
私は目を閉じ、お母様の墓石の前で誓った。
『必ず、あの人にこの恩を返します』
『申し訳ありませんが、局長殿か副長殿はいらっしゃいませんか』
京に上った後、すぐに組長の言っていた「浪士組」について調べた。
すると、その「浪士組」は「新選組」に名を変えて
活動していることが解ったのだ。
だから私は、すぐにその新選組の屯所を訪ねたのだった。
『局長殿、副長殿……単刀直入にお願い致します。
私を、新選組に入れてください』
何故、新選組に入りたいのか。
詳しい事情を話そうとしない私に、土方副長は苛立っていた。
だけど、それでも私の入隊を認めてくれたのだ。
土方副長……そして近藤局長にも、私は感謝しなければならないのだろう。
『、お前には二番組に入ってもらう』
『承知しました』
『新八、頼んだぞ』
『お、おう!
よろしくな、』
『はい、よろしくお願い致します、永倉組長』
やっと、会えた。
……やっとあなたに会えた。
あなたが江戸を離れてから、ほんの数年しか経っていないのに。
本当に、久しぶりに会えた気がした。
新八さん……
ようやく、あなたにこの恩を返すことが出来る場所までやって来ました。
『お母様にも、誓ったのだから……』
だから私は。
この場所で新選組の隊士としてあなたと共に戦い、あなたの力になる。
『それが、私に出来る唯一のことだから』
新八さん……
今度は私が、あなたを護ります。
――――きっと、必ず。
→第十八話
→戻る