「私はあなたを追いかけて……江戸から、やって来たのです……」



お母様が人斬りに殺されてしまったあの日から、今日までのこと。
私はそれを全て永倉組長に話した。










「あなたのためにと、私は新選組に入った……」


『お前は、こんなところに居るべきじゃない』















「私のために新選組を離れろと言って頂けるのは、本当に嬉しいです。
 だけど、私は……」



私は、あなたの力になりたい……
あなたのそばで、あなたを護りたいのに……










「あなたと共に戦いたいのに、あなたはそれを望まない」



それならば、私は……














「私は……どうすればいいのですか……新八さん…………」


…………」



こらえきれず涙が流れてきた。



――ああ、涙なんて。
流すのは本当に久しぶりに思える。





私は、頭の片隅でそんなことを考えていた。














、お前……お前はあのときの『』だったんだな」

「はい……」



そう言いながら、永倉組長は再び私の頭をなでてくれる。















「……前に下の名前を聞いたとき、ふと江戸に居た頃
 一緒に稽古してた女の子のことが浮かんだ」



でも、確信が無かったんだ。


困ったような顔をしながら、組長は言う。










「私の姿で……同じ『』だとは思いませんでしたか……?」

「似てるかな、とは思ったんだが……
 京に出るとき別れてから数年しか経ってねぇけど、お前けっこう変わってたからな」

「そう、でしょうか……」



自分では解りませんが、と私は続けた。









「なんつーか……お前、綺麗になってたし……な」

「え、……」



まさか、組長の口からそんな言葉が出てくるなんて。
予想もしていなかったから、思わず間の抜けた声を出してしまった。















「そ、それに!
 前よりあんま表情出さなくなってたし、
 言葉遣いも、さらに丁寧になってたしよ……」



顔を赤くして、慌ててそう言った組長。
なんだかそれがおかしくて、少し笑ってしまった。










「って、お前、今笑ったな!?」

「申し訳ありません」

「って言いながら、まだ笑ってるじゃねぇか!」



組長の言う通り、私はまだ笑いを抑えることが出来ないでいる。
だけど、いつの間にか涙は消えていたのだった。














「と、とにかく!
 俺は、お前があのときの『』だって気付けなかった」


けど、










「けど、お前が『』で良かったと思うんだ」

「それは……」



何故、ですか。


私がそう聞くと、組長は少し笑って答えてくれる。














「昔からお前の笑った顔は好きだったからさ。
 またその顔が見れて、嬉しいんだ」



お前はもう、感情の無いお前じゃない。
ちゃんと、心から笑ってる。



組長は、私の目をしっかり見てそう言った。










「組長、私は今……『そのままの私』、なのでしょうか……」


「ああ……俺の好きな、『そのままのお前』だ」



そうして少し間を空けて、最後に組長は言った。














「新選組を……抜けてくれるな……?」



私はただ、黙って頷いた。



































だから、大切にしなさい。







「お母様…………」



あのときのお母様の言葉を、私はもっと考えるべきだったのかもしれない。
この人に感謝して、大切にすることは確かに必要だったけれど。


だけど、ただ何かすることで――人を斬ることで、恩を返すわけじゃない。



例えば、その人の無事を祈ること。
その人にただ「ありがとう」と伝えること。
そういったことで、良かったのかもしれない……。









「ごめんなさい、お母様…………」



私は大きな間違いを犯していました。
いえ……もしくは、自己満足で行動していたとも言えるでしょうか。





だけど、それをこの人は正してくれました。
おそらくお母様が生きていれば私に言ってくれたであろうことを、
たくさん言葉にして伝えてくれました。














『人を斬ってるときより、何気ない話をして笑ってるときの顔の方が何倍もいい』


『普段も心から笑ってる感じがしなくなった。
 けど、それじゃお前らしくねぇって思うんだよ……
 お前は、もっと優しい奴なんだ。俺は知ってる』


『だから、浪士を斬っているときも苦しそうだった。
 隠しているつもりだったかもしんねぇけどな……俺には解ったよ』






――ああ、今思えば。
この人はずっと、私のことを見守っていてくれたのに。



私は、何も解っていなかった。
ずっと、解ったつもりでいただけだった。








遅くても、それが解ったなら大丈夫よ



















お母様の声が、聞こえた気がした…………――――









第十九話

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