「……ってな感じで、どうですかねィ」
「うん、まァいーんじゃないの」
「じゃー作戦開始は明日にしやしょう」
「それがいいかもね」
んじゃまた、と言って、俺はの部屋を後にした。
懐かしきぬくもり――第一話 その人は未だに測りかねる
「とりあえず、と立てた作戦を実行するためにも、
まずはさんに会わねェと……」
近藤さんの依頼は、もう終わったんだろうか。
もし終わっていなかったら、
今、会いに行っても邪魔になるかもしれねェ。
そんなことを考えつつ、こっそり近藤さんの部屋を覗いてみると……
「それじゃあ、今回の依頼はこれでおしまいですね」
「あァ、ありがとうちゃん。
すまないなァ、どうも俺ァこーゆー机に向かう仕事が苦手で」
「いいえ、いいんですよ!
お力になれて、あたしも嬉しいですから」
申し訳なさそうに言った近藤さんに、さんは笑顔で返した。
話しの流れからすると、
書類整理か何かを手伝ってもらってたみてェだが……
どうやら、その依頼もちょうど終わったってところか。
「報酬も確かに頂きましたので、
今日のところはこれで失礼しますね」
「あァ、助かったよ! また頼むな」
「はい、ぜひまたお声をかけてください!」
嬉しそうに言って、
さんが部屋を出るべくふすまを開けた……
「…………あ! 総悟くん?」
……開けたところで、
すぐそばに俺が居たからちょっと驚いた顔をした。
「急にすいやせん、さん。
実は、ちょっとアンタに依頼したいことがありましてねィ」
「ほんと? 総悟くんが依頼してくれるなんて嬉しいな」
本当に嬉しそうな顔をしてそう言ったさん。
まァ、確かに……名刺をもらってから、
俺が依頼をするのは初めてだったから
客が増えて単純に嬉しいんだろうと安易に考えた。
「ここじゃあ、何ですから……
詳しい説明をしたいんで、俺の部屋に来てもらえますかィ」
「うん」
近藤さんに一声かけてからふすまを閉め、
さんは俺に続いて歩き出した。
「それじゃ、さっそく依頼の内容について説明しまさァ」
「お願いします」
部屋に入り腰を下ろした俺に倣って、
さんが座ったのを見計らい、俺はさっそく話しを切り出した。
「実は、うちの隊の隊士が何人か、
明日から一斉に長期休暇を取るんですがねィ」
「うん」
「まァ単純に、その分隊士の数が極端に減っちまうんでさァ」
……本当は、奴らが休暇を取ったというより、
俺とが休暇を取らせたわけだが。
(そうじゃねェと、自然な流れでこの人に依頼できねェからなァ……)
「そこで俺がに相談したところ、
さんに手伝ってもらえばいい、ってことになりましてねィ」
「えっ……とゆうことは、つまり……」
……へェ、さすがはの姉上ってところか。
今まで何度か見てきた限りじゃあ、天然ってイメージが強ェけど
やはり勘は鋭い人だと見て間違いねェ。
「一週間でいいんで、
一番隊隊士として俺を手伝ってくれませんかねィ?」
一週間すれば、休暇を取った奴らが戻ってきますんで。
そう付け加えると、さんはうーんと悩み始める。
「ええと……
もちろん喜んでお引き受けしたいけど、その前に聞いてもいいかな?」
「ええ、どうぞ」
依頼については、今のところ前向きに考えているらしい。
この人の「聞きたいこと」に対して俺がうまく答えられれば、
作戦もうまくいきそうだな。
俺はこっそりそんなことを考えた。
「のおすすめ、ってことだったよね。
それは置いといて、総悟くん自身はあたしに
『隊士』が務まると思ってる?」
「……そりゃもちろんでさァ」
もっと違うことを聞いてくるのかと思ったから、
答えるのに少し間が空いちまった。
けど、さんはそんなこと気にせずに
また少し悩み出して……
「…………うん、解りました。この依頼、お引き受けします」
「マジですかィ、助かりまさァ!」
助かったという感じを前面に出すために、
俺はわざと大げさに喜んで見せる。
「一週間、総悟くんの一番隊につく……ということでいいんだよね」
「ええ。急な依頼だったんで、明日からでお願いしますぜ」
「解りました」
依頼してくれてありがとう、と嬉しそうに笑ったさんは
何かの準備があるから帰ると言い残し、俺の部屋を出て行った。
「…………ひとまずこれで、第一段階はクリアだねィ」
これで土方の野郎に
「さんが部下になった(期間限定)」って自慢できるぜ。
――そう、早い話しが、今回の作戦ってーのはこれでさァ。
「最初はあんなに警戒してた野郎が、惚れたお人だ」
こーゆー言い方は何だが、
これからも野郎を陥れるためには使えるはず。
「それに、もう一つ……」
これはには話していないが、
俺自身もさんをちゃんと見極めてみてェ。
野郎が惚れたくらいだ、何か持っているのは間違いねェからな。
……この回りくどい作戦には、そういう思惑もあった。
「…………」
さんが閉めたふすまを再び開け、廊下に出てみる。
すると、向こうのほうにまだ
その人の後ろ姿を確認することが出来た。
「…………しっかりとお手並み拝観させてもらいやすよ、さん」
明日からが、楽しみですねィ。
そんなことを考えながら、俺はその背中をしばらく見つめていた。
To Be Continued...「第二話 少しの誤算」