「ええと、改めまして……
           皆さん、おはようございます! です。

           今日から1週間、総……沖田隊長のもとで、
           一番隊隊士としてお世話になります!」


          よろしくお願いします、と言って、その人は頭を下げた。



















懐かしきぬくもり――第二話 少しの誤算






























          『近藤さん、土方さん、ちょっといいですかィ』


          ――昨夜。

          何やら部屋で相談事をしていた二人を、俺は訪ねていた。





          『おォ、総悟。どーした?』

          『いえ、ちょいとばかしご報告を』

          『報告だァ?』


          俺の言葉に、訝しげな顔をする土方さん。
          だが俺は、それには気づかねーフリをして本題に入る。





          『明日からなんですがねィ。
           ウチの隊の隊士が何人か、
           一斉に長期休暇の届出をしているでしょう?』

          『あァ、そういえばそうだったな』

          『さすがに一度に何人も抜けるとなると、
           人手不足になっちまいますんで……

           明日から隊士として動いてもらうよう、
           さんに依頼しておきやした』

          『に……だと?』


          へェ……から「惚れてる」なんて聞かされたものの、
          半信半疑だったけど。

          この食いつきよう、どうやら本当の話しらしい。


          こいつァ、いいや……。












          『ちゃんに、隊士……か。

           今まで書類の整理は何度かお願いしてたけど、
           隊士となると出陣もありえるな』


          大丈夫だろうか、と、近藤さんは土方さんに意見を求める。





          『……まァ、今まで多少危険な調査も何度か頼んでるからな。

           のお墨付きでもあるし、
           自分の身を守るくれェの力はあるんじゃねーか』

          『そうだよなァ……』


          土方さんがそう言ったものの、
          近藤さんはさんのことが少し心配らしい。
          (に対するのと同じで、
           どうやら彼女のことも妹のように思っているようだ)










          『確かに、近藤さんの気持ちも解りまさァ』


          俺もあの人の戦うところは見たことがねェからな。





          『だよなァ……
           トシはちゃんの戦いぶり、見たことがあるのか?』

          『いや……俺もねェよ』


          へェ……そこは土方さんも把握してねェってワケですかィ。
          そりゃアだいぶ興味ありますねィ……










          『ま、の話しによれば、かなりデキるらしいですぜ』


          確か、も勝てるか解んねェとか言ってたな。





          『剣の腕を買われてここに入ったあのが、
           勝てないかもしれないだと?』

          『それは……それが本当なら、すごいことだな』

          『そういうワケでさァ、その辺は心配いらないと思いますぜ』


          その後も近藤さんは少し心配そうにしていたが……

          隊士不足の問題も否めないので、
          最終的にさんの臨時入隊を許可してくれた。




















          「よろしくな!」

          「一緒にがんばろうぜ!」

          「こちらこそ、よろしくお願いします!」


          土方さん、近藤さん、
          やその他もろもろの依頼を受けている関係で、
          この屯所にももう何度も出入りしているさん。

          そのため、おそらく名前までは把握しきれていないだろうが、
          顔を知らない者は居ないといったほどになっているようだ。





          「それじゃ、さん。今日から1週間、頼みまさァ」

          「うん、総悟く……じゃなかった、はい、沖田隊長。
           よろしくお願いします!」


          呼び方は、俺が強制したワケじゃねェが。
          まァ、この人なりの、仕事に対する向き合い方なんだろうし、

          それに……





          「…………」


          土方の野郎が、すげェ目でこっちを見てやがる。
          どーせさんが俺の部下になったことが、羨ましいんだろう。

          だから呼び方のことも、特につっこまないでおくことにした。
          (それで野郎がもっと悔しがればいい)















          「それじゃ、いつも通り、朝の素振りだ!」

          「「「「「「「「「「はい!!!」」」」」」」」」」





          「え、えっと……?」

          「これから庭に出て全員で素振りすんだよ。毎朝やってる」

          「あっ、そうなんですね!」


          テキパキと動く隊士たちを見て、さんが困っていると。
          それを見つけた土方さんが、すかさずフォローに入る。
          (優しさアピールってワケかィ、野郎……)





          「ひーじかたさ〜ん、今のさんは俺の部下ですぜ。
           素振りのことも俺が教えますから、
           さっさと隊士たちの指導に行ってくだせェ」

          「チッ……」


          よーし、いい顔だ……
          もっと悔しがれ、土方!










          「あ、あの、土方さん。
           あたしは大丈夫ですから、皆さんの素振りを見てあげてください」


          未だ動こうとしない野郎に、さんがやんわりとそう言った。





          「…………じゃあ俺ァ行くが、
           何か困ったことがあったらいつでも言えよ」

          「はい、ありがとうございます!」


          さんの頭をぽんぽんと軽く叩いた土方さんに、
          満面の笑みで返すさん。

          なんだかいい雰囲気を醸し出してやがる……
          これじゃ作戦の意味が無ェだろィ。










          「…………いや、そもそも俺の部下にするって時点で、
           さんが屯所に居る時間が長くなる
              ↓
           野郎ともよく会うようになる
              ↓
           野郎が喜ぶ  ってーことになるか」


          俺としたことが、そこを失念してやした……

          だから昨日、野郎はさんの臨時入隊に
          そこまで反対してなかったのか。


          チッ……










          「どうやら作戦の出だしはあまり良くないみたいだな、総悟」

          「……」


          さっきまで大して言葉を発していなかったが、
          いつの間にかそばに来ていた。

          ……どうやらさんは、
          そのに言われ先に庭へと向かったらしい。








          「その口調だと……
           俺が失念していたこと、早々に気づいてやしたね?」

          「まァな」


          だったら、その場で言ってくれればいいものの……。
          俺はそんな恨めしい思いを込めた視線をに送る。





          「まァ、トシに対する作戦はもしかしてうまくいかないかもしれない。
           けど、もう一つの作戦はうまくいくんじゃない」

          「は……?」

          「見極めたいんだろ、あの人のことを」

          「……!」


          まさか、……気づいて…………。





          「なんとなくな」

          「…………まさか、だまくらかし合いで俺が負けるとはねィ」

          「だてにその地位――一番隊隊長を狙っていないよ」


          冗談めかしてはそう言った。










          「さてと、もそろそろ素振りを始めるとするかな」


          それだけ言い残して、庭に向かっていった。





          「……チッ」


          今日はなんだか色々うまくいかねェ。

          けど、まだ始まったばっかりだからな……
          できるだけさんに絡んで、それを野郎に見せつけてやるぜィ。




















          「……あっ、良かった、総悟く……沖田隊長!
           に言われて先に来たのはいいものの、勝手が解らなくて」


          遅れて庭に着くと、おろおろしたさんが駆け寄ってきた。





          「すいやせん、遅くなっちまいました。
           さんの分の竹刀を、取りに行ってたもんで」

          「あ、そっか……ありがとうございます!」


          竹刀が無いと始まらないですもんね、と、
          さんは無邪気に笑った。





          「剣術のほうは?」

          「ええと……恥ずかしながら、からっきしです」

          「了解でさァ」


          なら、一から教えますぜ。





          「はい、お願いします!」


          やる気満々でそう返し、竹刀を受け取る。
          そんな彼女に指導をしつつ、俺も朝の素振りを始めるのだった。




















          To Be Continued...「第三話 戦場に立つ刻の瞳は鋭利