「さん、見回りに行きますぜィ〜」
「はい、沖田隊長」
「それじゃ皆さん、行きましょうか!」
「おう、ちゃん!」
「今日もがんばろうな!」
さんにだけ声を掛けて、俺はさっさと屯所を出ていこうとする。
その後ろで彼女が、言われずとも隊士たちを率いていた。
懐かしきぬくもり――第五話 似ていて非なるもの
――さんが臨時入隊して6日目。
さすがに慣れたようで、だいたいの業務は説明しなくともこなしていた。
何より俺の代わりに隊士たちを率いてくれるから、すげェ楽だった。
「しっかし、楽できるのも明日で最後か……」
「オイ、。気を付けて行ってこいよ」
「はい、土方さん!
戻ってきたら、見回り結果のご報告に行きますね」
「あァ、頼む」
野郎に見せつける作戦なんて、ほとんど失敗だしなァ……
同じ屯所内に居るのをいいことに、何かにつけて彼女に声かけてくるし
野郎にとって、好ましい状況を作ってやただけな気がしてならねェ……
「…………チッ」
これじゃあに言われた通り、マジでうまくいってねェじゃねーか。
「だが……」
彼女の……さん自身のことは、少し解ってきた気がする。
見た目だってしゃべり方だって、性格だって全然似てねェけど……
あの優しい手は……姉上と、ちょっと似ている…………
「……――沖田隊長? どうしました?」
「あ、いや……」
さっきまで野郎と話してたはずのさんが、いつの間にかすぐそばに居た。
「隊士の皆さんは、既に外に出て準備万端です。
あたしたちも、行きましょう?」
「……ええ、そうですねィ」
そう促され、俺は彼女と共に屯所を出た。
「――……ということで、午前の見回り担当として市中に行ってきましたが
これといって変わったことは無かったです」
「そうか……報告、ご苦労」
見回りを終えて屯所に戻ると、
さんは「土方さんにご報告してきますね」と言って野郎の部屋に向かった。
……そして俺はと言うと、彼女には自分の部屋に戻ると言っておきながら
こうしてこっそり後をつけていた。
「それで……どうだ、。ウチには慣れたか」
「はい、もう6日目ですから」
隊士の皆さんともかなり仲良くなれました、と、彼女は嬉しそうに言った。
「だが、他ならまだしも、よりにもよって一番隊……
斬り込み部隊を担うだけあって、隊長含め血の気の多い奴も少なくねェだろ」
確かに、それはそうだった。
だが「血の気が多い」ってだけで、別に悪人ってワケでもねェ。
……その辺はさんもちゃんと解ってるらしく、
今朝見た見た通り隊士たちとの仲も良好だと思う。
「確かに、喧嘩好きの方が多いみたいですね……隊長含め」
土方さんの言葉を真似して、少し悪戯っぽく言う。
「でも、隊長――総悟くんは、ちゃんとあたしの面倒を見てくれてますよ」
「…………」
「そう、なのか?」
「はい。
確かに、仕事内容に好き嫌いがあるのかな、
っていうのは見てて思いますけど」
それを隠さず表に出すのも、あえてやっていると言うより、
もともとそういう性格みたいですよね。
「でも、仕事のことで質問したらちゃんと答えてくれるし、
お願いすれば稽古もしっかりつけてくれます」
「あの総悟が……」
なんて言いながら、野郎はさんの言葉が信じられねェようだった。
(やっぱ後で絶対ェ殺す)
「きっとあたしを臨時入隊させた責任を、きちんと理解しているんでしょう。
そんな総悟くんだから、一番隊の皆さんも彼を慕っています」
「まァ、確かに……
アイツらはまだ若けェ総悟を、ちゃんと隊長として見てるな」
「はい」
「…………」
さん……
やっぱりあの人は、見てねェようで色々と見てる。
俺が近藤さんのこと親兄弟みてェに慕ってるってことも、そうだ。
「……あの、土方さん」
「何だ」
「あたし……
総悟くんからのこの依頼、お受けするかものすごく悩んだんです」
野郎との話がひと段落して……
少し間を空けて、彼女が口を開いた。
「総悟くんは、その……
あたしとの距離を、測りかねている感じだったので」
警戒しているというよりかは、戸惑っているっていうほうが近い。
「でも、いい機会だと思ったんですよね」
「機会? 何のだ」
「はい……『沖田総悟』という人を、よく知れる機会かなって」
「……!」
『…………しっかりとお手並み拝観させてもらいやすよ、さん』
「…………」
まさか、さんも……俺と同じようなことを……?
「総悟くんはどう思っているか解りませんが……
あたしは総悟くんとも、仲良くなりたいんです」
そのためには、まず「沖田総悟」という人をよく知らないといけない。
「あんなにあたしのこと警戒していた土方さんが、
何度も依頼してくれるようになったんですから」
総悟くんとも、もっと仲良くなれるんじゃないかなって。
「…………俺のことも解ってたのか」
「ええ、まあ」
罰が悪そうに言った野郎に、さんは楽しそうに笑った。
「そういう考えもあって、この依頼をお受けしたんです。
でも、お受けして正解でした」
総悟くんと一番隊の皆さんのことが、前よりよく解りましたし。
「土方さんや近藤さんたちも助けてくれたので、
なんとか依頼を最後までこなせそうですしね」
「あァ……お前なら、心配ねェだろ」
そう言って頂けると、嬉しいです。
「残りあと1日だが、まァ……なんか困ったことがあったら言えよ」
「はい、ありがとうございます!
それじゃ、あたしはそろそろ戻りますね」
「おう」
「…………行かねェと」
さんと鉢合わせする前に、俺もさっさとその場を離れた。
「総悟くん、どこかな……
先に戻るって言ってたから、てっきり部屋に居ると思ったんだけど……
…………あっ、またあのアイマスク!」
「…………」
この足音……さんだ……
「…………沖田隊長?」
「…………」
それが解っていながらも、この間とは違いホントにほとんど夢の中だった俺は
眠気に抗わずそのままでいた。
「…………今日はすっかり夢の中なんだね、総悟くん」
「…………」
優しい声でそう言ったさんが……隣に座った気がした。
「…………」
今、頭を……なでて、くれてる……この、優しい手は……
『総ちゃん』
この、手は…………
「おやすみなさい…………総ちゃん…………」
誰の…………
「あね、うえ…………?」
いや、違う……この声は…………
「……さん――…………」
To Be Continued...「第六話 その人を見極めた結果」