「さん、稽古つけてあげまさァ!」
「いいの? ありがとう、総悟くん」
「いえいえ! それじゃあ行きやしょう」
「「「「「「「「「「…………!?」」」」」」」」」」
そんな会話をするあたしたちの後ろで、
近藤さん、土方さん含め隊士の皆さんが何故か固まっていた。
懐かしきぬくもり――第六話 その人を見極めた結果
「…………オイ、ちょっといいか」
「土方さん……
あの、でも……総悟くんとこれから稽古にいくんですが」
「その前に聞きてェことがある」
すぐに済むから、と土方さんが言うので……
総悟くんに後から道場に向かう旨を伝えて、あたしはその場に残った。
「お前……いや、アイツはどーしたんだ?」
「あいつって……総悟くんのことですか?」
「他に居ねェだろ」
確かに、それはそうなんだけど……
でも土方さんの言葉の意味が解らないので、
あたしは首をかしげてしまう。
「昨日までとエライ態度が違うじゃねーか。何かあったのか」
「ええと……それが、あたしにもよく解らないんです」
「解らねェ?」
「はい」
『……あっ、屯所の前に総悟くん?』
臨時入隊してから、毎朝うちから真選組屯所に通ってて……
最終日である今朝も同じように屯所へ向かうと、
門のところに総悟くんの姿があった。
『おはようございます、沖田隊長!
今日もよろしくお願いしますね』
この依頼を受けてから心がけていた、
「一番隊隊士として」の挨拶をすると。
気付いた総悟くんが、ぱあっと嬉しそうな顔をした。
『さん、待ってましたぜィ!』
『え……?』
何か緊急のお仕事でもあるのかな、と思ったけど、
話しを聞いているとそういうわけでもなくて。
どうやら、出勤してくるあたしのことを
出迎えに来てくれてたみたい。
『さん!
もう「沖田隊長」なんて呼ばねーで普段通りでお願いしまさァ』
『えっ、でも……そこはちゃんとしないと、
って思ってたんだけどいいのかな?』
『俺が普段通り呼んでほしいんで』
まぁ、隊長である総悟くんがそう言うなら……と思い、
今朝からまた呼び方は「総悟くん」に戻ったわけだった。
「まァ、呼び方については理解できたが……
あのお前に対する懐き方はどーなってんだ?」
「それは、あたしもよく解らないんですが……
でも、やっと仲良くなれたのかと思うと嬉しいです」
あたしに対して距離を測りかねている感じが、
昨日までの総悟くんからは伝わってきてた。
でも、今朝になってそれがやわらいでいて……
確かに「どうしたのかな?」とは思ったけど、
それよりも嬉しさのほうが上だったから、
あえて追究はしないでいる。
「あの、土方さん……
あんまり総悟くんを待たせるわけにもいかないので、
稽古に行っていいでしょうか?」
「あ、あァ……時間を取らせて悪かった。もう行っていいぞ」
「はい、それじゃあ失礼します!」
未だ戸惑い気味の土方さんに断りを入れ、
あたしは総悟くんの後を追った。
「…………マジでどーなってやがんだ、総悟の奴は?」
「う〜ん……ちゃんの言う通り、
仲良くなってくれたのはいいことだがなァ」
「だが、アレは急激に懐きすぎて逆にこえーぞ」
「そうだなァ、確かに気になるが……
…………ちなみに、ちゃんはどう考える?」
「うーん、そーですね……」
『見極めたいんだろ、あの人のことを』
『……!』
「総悟はお姉のこと、しっかり見極めたんだと思いますよ」
「見極めた?」
「ええ、そーです」
トシへの嫌がらせ作戦ってことで、
総悟からは言われてたわけだけど……
あの人を見極める方がメインな気がしたから、
はあえて手を出さなかった。
「作戦の方は、……完全に失敗だったみたいだケド」
今の総悟には、そんなことどーでもいいんだろうな。
「見極めた結果がそれなら……まァ良かったんじゃない、総悟」
それからお姉も……良かったね。
信頼できる相手が、また一人増えて――…………
「総悟くん、待たせちゃってごめんね!」
「いえいえ、大丈夫でさァ!
それより、土方さんに変なことされませんでしたかィ?」
「へ、変なこと? ええと……別に何もされてないよ?」
「それなら良かった」
そう言って、総悟くんはにこっと笑った。
――こうやって笑うと、やっぱり年相応に見えるよね。
なんてゆうか、今まで「にやり」っていう顔が多かったから……
こういう顔を見ると、また別の面を知れた気がして嬉しい。
「じゃあぼちぼち始めるんで、準備をお願いしまさァ!」
「うん!」
『あのお前に対する懐き方はどーなってんだ?』
「…………」
そうして稽古の準備をしながら、
あたしはつい今しがた土方さんに問われたことを思い出していた。
「あたしも、正直ちゃんとした理由は解らない……でも……」
『おやすみなさい…………総ちゃん…………』
「きっと……
昨日、眠ってる総悟くんの頭を撫でて、
そう言ったことが理由なんだろうな」
ほとんど夢の中にいたのは、間違いないだろうけど……
あたしの声が、なんとなく聞こえていたんじゃないかな。
『総悟にも姉が居るんだよ。ミツバさんと言うんだが……
あいつもだいぶ彼女を慕っていたし、
彼女も「総ちゃん」って可愛がっててな』
「…………」
昨日土方さんに報告したあと、また近藤さんとバッタリ会って。
ほんとにほんの少しだけ、総悟くんのお姉さんについて教えてもらった。
そのお姉さんは、総悟くんのことを
「総ちゃん」って呼んでたっていうから、
そう呼んだら安心して眠れるかな、って、安易に思ったんだけど……
「あながち間違いじゃなかったのかも」
もしあたしが「総ちゃん」と呼んだことを覚えてたら、
勝手に呼んだことを怒るかなって心配もしてたんだけど……
大丈夫だったみたい。良かった…………。
「さ〜ん、準備できましたかィ?」
「バッチリだよ」
「それじゃ始めやしょう!」
「うん、お願いします!」
――真選組に臨時入隊して7日目。
最終日の今日は、こうして総悟くんとの稽古から始まるのだった。
To Be Continued...「エピローグ」