輪廻-現世篇-
20×△年。
地球から天人が去ってから数十年。
ここにはもう、宇宙外生物なんて存在していなかった。
「オイ総悟、。張り込みに行くぞ」
「わかりました」
「仕方ないですねィ」
真選組が活動していた頃から、200年近くが経った。
私は今……警視庁で、刑事をしている。
男女平等が説かれている世の中だが、
女の刑事はまだまだ珍しく……
最初はなかなか認めてもらえなかった。
だけど今は、それなりの信頼も得ている。
「最近は大人しくしていたようですが、
そろそろ何か動き出しそうですね」
「あァ……辛抱できなくなってきてるはずだ」
「確かに、見た目からして我慢強くなさそうですぜ」
上司の土方さん、私と、後輩の総悟の三人で
ここ数日マークしていた男を今から尾行するのだ。
しばらくは山崎くん一人に任せていたけど、
そろそろ頃合いだと判断し、私たちが動くことになった。
「まァ、犯人の気持ちが
全くわからないこともないんですけどね……」
愛する人が死んでしまったなんて、ひどく悲しいはず。
でも、そのことを理由に逆恨みして、
関係の無い人を殺すなんてあってはならないのだ。
「俺だって、全くわからねーわけじゃない。
だが、そうも言ってらんねェ状況だぞ」
「わかってますよ」
そう、わかっているつもりだ。
「…………」
でも今回の事件には、やっぱり思うところがある。
私も、愛する人を失ったから……
「……ううん、違う。そうじゃないね」
私たちは、共に人生を終えてしまったんだよね……。
私の、今の名前は。
『』は、私の元々の苗字だ。
つまり、総悟とは結婚していない。
「…………」
なぜこんな事を言うのか……
それは、私が前世の記憶を持ってこ生まれたからだ。
仕事も似たようなものに就いているし、
周りには前世とまるっきり同じ人たちがいる。
警視総監の近藤さん、副総監の土方さん、監査の山崎くん、
そして……
“沖田総悟”
私たちの姿、声や名前でさえ。
あのときと何も変わらない。
変わっていることと言えば、たった一つ……
「行きやしょう、さん」
「あ、うん」
総悟は私のことを『さん』と呼び、敬語を使っている。
同い年なんだけど、ここに入った時期が違うからって
ご丁寧に敬意を払ってくれているみたい。
「…………」
私は総悟を愛していたことを覚えているのに、
総悟は何も覚えていない。
……ううん、総悟だけじゃない。
他のみんなも、前世の記憶は持っていないようだ。
私は今でも……
総悟のことをこんなに愛しているのに――……
これから現場に向かおうとしたときだった。
ふいに土方さんのケータイが鳴る。
(そのとき、何か嫌な予感がした。)
「おう、どーした」
『あっ、大変です副総監!!』
「山崎か。何があった?」
どうやら、山崎くんからの電話みたいだ。
(似ている……あのときと、似ている……)
『犯人が突然、潜伏していたアパートから飛び出して!
人質をとって街中のバーに立てこもってるんです!』
「なんだと!?」
『すでに近くを巡回していた警官が先に向かっています!
副総監たちもすぐに向かってください!!』
内容までは聞こえないけど……
電話越しの山崎くんの声が、
どこか切羽詰っているように思えた。
「待て、人質の様子はどうなんだ?」
『今のところは無傷ですけど、
犯人は相当興奮しているようで……
「いつどうなるか、わからねーってことか」
「……?」
いつどうなるか、わからない……?
『はい、とにかくすぐに来てください、
それまではなんとかしますから!!』
電話はそこで切れた。
ただならぬ気配を察して、
私と総悟は急いでパトカーに乗り込む。
現場に向かうまでの間に、土方さんから事情を聞いた。
「そんな……」
人質をとって立てこもってる……
やっぱり犯人はアイツだったんだ。
「こりゃあ、なかなか厄介ですねィ」
それに、街中だなんて……
一般市民を巻き込みかねない。
実力のある土方さんや総悟だって、
人質がいるとなれば上手く立ち回れないはず。
(怖い……あのときと似ていて、怖いよ……)
「しんどいことになるとは思うが……
絶対に逮捕のチャンスを逃すなよ。いいな、二人とも」
「「……はい」」
そう返事をしつつも、私は不安でいっぱいだった。
「…………」
どうしよう……
また同じことを……繰り返してしまったら――……
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