「よっしゃー!今日はギリギリセーフ!」
「もう、平助君ったら……
あんまりゲームで夜更かししちゃだめだよって言ったのに」
「…………」
風紀委員が遅刻の取り締まりをしている中、
遅刻ギリギリで校門に駆け込んできた二人――藤堂平助と雪村千鶴は、
聞いたところによると、どうやら幼馴染らしい。
そんな二人とあたしは、クラスメイトでもあった。
「あ、おはよう、さん」
「おはよう、雪村さん」
雪村さんは、女のあたしでも見とれてしまいそうな、
そんな可愛らしい笑顔で挨拶してきた。
「よー、!」
「おはよ、藤堂。
今日はあんたを取り締まることが出来なくて、つまんないね」
「なっ、何だよそれ!」
「別に!」
――あぁ、早く教室に行けばいいのに。
あたしの心には、それしか無かった。
こんな風に仲良く手を繋いでいるところなんて、
もう見たくないのに……。
でも、あたしも斎藤先輩や薫先輩と同じ風紀委員だから。
仕事を放り出すことだけは、出来ない。
だから、藤堂や雪村さんには、早くこの場から去ってほしい…………。
だけど、そんなあたしの思いをよそに、
藤堂は嫌味を言ったあたしにつっかかる。
「お前、そういうこと言わなくてもいいだろ!」
「だって、本当につまんないし!」
「オレが遅刻した方が良かったってのか!?」
「そういう風にも聞こえたでしょうね!」
いわゆる、売り言葉に買い言葉。
あたしたちの言い合いは、いつもこうやってエスカレートする。
「ね、ねぇ、平助君。
早く教室に行かないと先生が来ちゃうよ?」
「あ、そ、そうだな……じゃあ行こうぜ、千鶴!」
雪村さんの言葉で、藤堂は少し冷静になる。
この言い合いは、いつも彼女の介入で納まるのだ。
「じゃあな、!
せいぜい一君の足とか引っ張らないようにしろよー」
そんな言葉を残して、藤堂は雪村さんと一緒に校内へ入っていった。
――何なの、人の気も知らないで。
何だかモヤモヤしてきたけれど、それを振り払うようにあたしは頭を振った。
「どうかしたのか、」
「あ、いえ……何でもありません」
あたしの妙な行動が気になったらしい斎藤先輩がそう言ったけれど、
適当に誤魔化しておいた。
……隣に居る薫先輩は、とても意味深に笑っている。
どうやら、解っているようだ。
「も可哀想だね」
「薫先輩、思ってもないこと言わないでくれます?」
「あ、ばれてたんだ」
そう言いつつも、反省している様子なんて微塵もない。
全く、本当にこの男も食えないね……。
「斎藤先輩、そろそろ始業のチャイムが鳴りますが、
まだ取り締まりを続けるんですか?」
チャイムが鳴れば、すぐに先生が教室へとやって来る。
あたしたちが風紀委員で、遅刻の取り締まりをしていること、
もちろん担任の先生たちも知っている。
だけど、そのうち一時間目も始まってしまうし。
早めに教室へ戻りたいという気持ちは、あたしにもあった。
「まだ、一番の大物が来ていない」
「一番の大物?」
「君の幼馴染のことじゃないか、」
「あ、」
そういうことか……。
薫先輩の言葉で、そういえばそうだ、と思ってしまった。
一番の大物=遅刻の常習犯、
そしてあたしの幼馴染――沖田総司が来ていない。
どうやら斎藤先輩は、総司が来るまで待つつもりらしい。
「全く、総司には困ったものだ」
「毎回取り締まらなきゃいけない、こっちの身にもなってほしいね」
遅刻の取り締まりは、毎週火曜日に行っているんだけど……
総司は、毎回(正確には、ほぼ毎日)遅刻してるんだよね。
斎藤先輩とは同じクラスで、教室でも散々言われているのに
それでも遅刻は直らないみたいだ。
「ねぇ、。
あいつは君の幼馴染なんだから、君がなんとかしてよ」
「あ、あたしだって一応、毎朝電話して起こしてますよ!」
それで、総司はちゃんと起きてるんだから。
遅刻するなんて、誰も思わないっていうのに……
「があいつの家まで行って、引きずって連れてくれば?
千鶴みたいにさ」
「そんなめんどくさいこと、出来るわけないでしょう!」
あたしだって、暇人じゃないんだから!
それに、雪村さんみたいに、だなんて。
あたしはそんなこと、したくない。
雪村さんと同じことなんて、したくない…………。
「ねぇ、君。僕の幼馴染をいじめないでくれる?」
その言葉にはっとなって顔を上げると、そこには総司の姿があった。
「別に、いじめたつもりは無いけど」
「ふーん、どうだか」
「二人とも、何をしている」
なんだか険悪な雰囲気になってきた二人の間に、斎藤先輩が入った。
「総司、お前はいい加減に遅刻をやめろ」
「それがさぁ、僕も一生懸命起きようとしてるんだけど、
どうしても寝ちゃうんだよねぇ」
「寝ちゃうって……人がわざわざ起こしてるのに、何してるの!?」
二度寝してたってこと!?
「ごめんってば、」
「謝れば済むことじゃないって!」
「落ち着け、。
とにかく、総司は校則第8条により、失点2だ」
てか、総司はどこまで失点になれば気が済むの……?
「では、本日の取り締まりはここまでとする。
既にホームルームが始まっている時間だから、
お前たちも直ちに教室へ向かうんだ」
「解りました、先輩」
「斎藤、、お疲れ様」
まったく、総司のせいで取り締まりが長引いたよ!
「せっかく学校まで来たけど、なんかめんどくさいな。
もう帰っちゃおうかな」
「ちょ、ちょっと、何言ってるの、総司!」
教室に向かおうとしたあたしの耳に、
総司のとんでもない言葉が入ってきた。
「そんなことさせない! 絶対教室まで連れてくからね!」
「はいはい」
ムキになるあたしに対し、総司は終始適当な返事をするだけ。
また薫先輩に何か言われそうだし、これ以上勝手なことされたくないから
自分の教室を素通りして、あたしは総司の教室を目指す。
「…………ねぇ、?」
「何?」
大人しくあたしに引きずられていた総司が、教室に着く手前で話しかけてきた。
「何か悩みがあったら、僕に相談してね」
「えっ……」
悩み……?
「それって……薫先輩が嫌味っぽいこととか?」
「違うよ」
総司が、呆れながらもしっかり否定する。
「クラスメイトの、二人のこととか……ね」
「……!」
――あぁ、そうか。
総司も、薫先輩と同じで解っているんだ……。
「…………うん、何かあったら、相談する」
「いい子だね。それじゃ、僕は教室に行くから」
「うん……」
毎日遅刻して、ケータイいじくってばっかで……
そんな総司だけど、やっぱりあたしより年上の、幼馴染なんだ。
いろんなこと、見抜いてる。
「……総司、あんまり遅刻しちゃダメだよ」
「うん、なるべく心掛けるよ」
そう言うのを何回も聞いてきたけれど、総司の遅刻は直らない。
「…………さて、とにかくあたしも教室に戻らなきゃ」
一時間目が始まっちゃうからね。
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