「…………なぁ、千鶴」

          「なあに?」


          一君、薫、総司、そして

          四人のやり取りを教室から見ていたオレは、
          視線を外し、隣の席に居る千鶴に向き直った。






          「総司とって、仲いいよな……」


          さっきのやり取りを見て、そう思った。

          ……まぁ、あいつはあの性格だから、友達はいっぱい居るみたいだ。
          同じ風紀委員の一君や薫とも、何だかんだで仲がいいし。


          けど、総司とも仲がいいなんて。
          そんなの、知らなかった……。






          「さんも、斎藤先輩や薫と一緒に
           毎回沖田先輩が遅刻するのを取り締まってるからじゃないかな?」


          千鶴の意見は最もだったが、何故かそれだけじゃない気がした。

          何か、もともと知り合いって感じのような……。











          「それに、さんって誰とでも仲良くなれるみたいだから。
           先輩後輩の壁も、それほど気にならないのかも」

          「ふーん……」


          自分から聞いておいてなんだけど、本当は、
          二人がもともと知り合いかどうかなんて、
          どうして仲がいいのかなんて、どうでもいい。

          ただ、“二人の仲がいい”ってのが、無性に気に食わないんだ……。


          そんな風に考えているとき、教室の扉が勢いよく開かれた。







          「良かった、先生まだ来てないんだ!」

          「セーフだよ、。良かったね」

          「うん」


          既にホームルームの時間だというのに、担任の先生はまだ来ていない。
          それより先に、遅刻の取り締まりをしていたが教室に入ってきたのだ。















          「さん、お疲れ様」


          千鶴が、自分の前に座ったに声を掛ける。
          ……の席は、千鶴の前なのだ。つまりは、オレの斜め前。






          「うん……ありがとう、雪村さん」


          少し間を空けて、は千鶴に礼を言う。







          「本当にさ、総司だけでも手一杯なのに、
           誰かさんが遅刻ギリギリで登校するからさー」


          わざとらしく声を大にして、はオレの方を見る。






          「何だよ、それ。オレのこと言ってんのか?」

          「さあね。そう思うんなら、そうなんじゃないの?」


          こいつって、本当に口の減らない女だよな。可愛くない。















          「なんでお前って、そんなことしか言えないんだよ。
           千鶴みたいに、相手を気遣うこと言ってみろって!」

          「っ……
           あ、あたしがそんな優しいキャラなわけ、ないじゃん!」


          そんな強気なことを言っていたけど、オレは確かに見た。
          が、一瞬泣きそうになっていたのを。

          ――なんでだ?



          どうして、そんな顔をするんだ。
          そう思って問いかけようとした、けれど。












          「遅れてすまない!」


          用があってホームルームに遅れたという先生が来てしまったから、
          結局聞けずに終わってしまった。

























          「…………」


          あれから放課後になって部活も始まったけれど、
          オレの頭には、未だにのあの泣きそうな顔があった。

          ――なんだってんだよ、ったく。


          明るいのが取り得みたいな奴が、どうしてあんな顔をしたんだ。




          
『千鶴みたいに、相手を気遣うこと言ってみろって!』





          オレが、そう言ったから、なのか……?


          ……いや、そんなはずはない。

          だって、とは今まで数え切れないほどこんな言い合いをしていて、
          あいつも、いつも負けじと言い返してきたし。


          オレが言い過ぎたかな、って心配になったときも、
          次の瞬間には仲のいい女友達と楽しそうに笑ってたから。

          あぁ、こいつは平気なんだなって思ってた。







          「…………」


          本当は、そうじゃなかったのか…………?















          「やぁ、平助」


          ごちゃごちゃ考え込んでいたオレに声を掛けてきたのは、
          同じ部活の先輩にあたる人間――総司だった。

          ……けど、まぁ、敬語とか全然使ってないけどさ。






          「どうしたの? 何か考え込んでたみたいだけど」

          「え、あ、その……」


          まさか、のことを考えてたなんて言えない。
          しかも相手が総司となると、なおさら言いにくい……


          …………いや、待てよ。
          これって、逆にチャンスかもしれない。

          そう思ったオレは、思い切って総司に聞いてみた。






          「な、なぁ、総司ってさ……と、もともと知り合いなのか?」


          ……って、これじゃあのこと考えてたってバレバレじゃん!

          言った後でオレは気づいたが、今さら取り消すことも出来ない。
          だから、大人しく総司の返答を待った。















          「なんでそんなこと知りたいの?」


          だけど、返ってきたのはオレに対する質問で。
          オレの質問に答えることなく、総司は反対に質問してきたのだ。






          「え、えっと、それは……」


          ――そ、そんなの答えられるわけねーじゃん!

          けど、ここで黙ってたら怪しまれるし、なんか適当に誤魔化さないと……。






          「な、なんとなくだって」
 
          「ふーん?」


          けど、オレの口から出てきたのは、そんな苦し紛れの言葉だった。
          案の定、総司もオレを怪しむような目で見てくる。







          「な、何でもいいだろ!
           もったいぶってないで教えてくれよ」


          オレがそう言った後、総司はしばらく考える。















          「うーん……やっぱり、秘密にしておくよ」


          そう言って、総司は練習に戻っていく。






          「って、おい! 総司!」


          なんで秘密なんだよ!

          総司の背中に向かってそう叫んだけれど、返答らしい返答は無かった。
















          「ちくしょう……」


          なんでと総司は、仲がいいんだよ……





          『オレが遅刻した方が良かったってのか!?』

          『そういう風にも聞こえたでしょうね!』




          なんでオレたちは、仲が悪いんだよ…………。








          「むかつく…………」


          総司とは仲がいいが?


          ――いや、違う。

          あいつに憎まれ口しか叩けない自分が、むかつくんだ…………。





          結局、その日の部活は全然集中できなくて、
          (こちらも一応先輩にあたる)一君から、下校する前に説教を食らってしまった。















          「今日は、踏んだり蹴ったりだったな……」


          けど、そもそもが泣きそうな顔をしたり、
          総司が質問に答えてくれなかったりしたのが原因だ。

          オレが悪いわけじゃない……。


          …………。






          「…………いや、だから違うだろ」


          ――悪いのは、オレなんだよ。

          それを理解しながら、オレは気づかないふりをしていた。










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