「総司ー!」


          放課後、あたしは総司のクラスまで来ていた。

          テスト前ということで、今日から部活も全面活動休止。
          だから、総司に勉強を見てもらうことにしたのだ。



          遅刻魔で(土方先生にだけ)態度が悪い総司でも、成績は優秀。

          いつもってわけじゃないけれど、
          心配なときは、たいてい総司に勉強を見てもらっている。







          「いらっしゃい、。入っていいよ」


          一応先輩たちの教室ということで、
          あたしは、総司の言葉を聞いてから教室に入った。

          ……とは言っても、教室に総司以外の人は誰も居なかったけれど。







          「で、今日は何?」

          「えーと、……数学と、ちょっとだけ古典」

          「あれ?って、古典は得意じゃなかった?」

          「うん、まぁ、数学よりは断然得意だけど……」


          ただ、ちょっと意味が解んないところがあるから、
          そこだけ聞きたいんだよね。

          あたしがそう言うと、総司はそっか、と
          ちゃんと聞いているんだか聞いていないんだか、解らない返事をした。














          「じゃあ、古典からやろうか」

          「え? でも総司って、古典は苦手なんじゃないの……?」


          いつも赤点だって、土方先生が言ってたような……?






          「大丈夫だよ」


          そう言った総司は、あたしが持っていた古典の教科書を取った。






          「解らないところってどこ?」

          「えーっと……」


          総司が手に取った教科書をあたしが覗き込んだとき、
          司は何気なく言った。















          「そういえば、平助が僕との関係を気にしてたよ」

          「え、……」


          総司は何気なく言ったはずなのに、あたしは言葉に詰まった。

          ――なんて、答えるべきなの?


          考えたけれど何も言えなくなり、その場も沈黙した。

          古典の質問をしようとしていたはずなのに、
          あたしの頭は、今、藤堂のことでいっぱいになってる……。













          「聞いてもいい?」

          「何……?」

          「平助のこと、好きなんだよね」

          「…………うん」


          やっぱり、総司は解っていたんだ……。


          ……本当は、誰にも言わないつもりだった。

          毎日のように言い合いをしているのに、好きだなんて。
          ネタにされてからかわれるのが、オチだから。


          それでも今素直に言えたのは、総司が幼馴染だから……だと思う。






          「平助は、僕とがなんで仲良しなのか気になるみたいだね」

          「な、仲良しって……」


          ほとんど腐れ縁みたいなものだけど……。






          「……でも、どうして藤堂がそんなこと気にするの?」

          「さあね。それを聞いたら、誤魔化されちゃったよ」


          あたしが誰と仲良くしていようが、藤堂には関係ない。
          そんなこと、気にする必要なんてない、それなのに。

          どうして、そんなこと気にするの……?














          「本人に聞いてみれば?」

          「そ、そんなことできるわけないってば!」


          総司は、少し笑った。
          ……あぁ、絶対に楽しんでるな、この男。


          あたしが恨めしい思いをこめて視線を送ると、
          総司は至極楽しそうに笑う。






          「平助にも言えることだけどね。
           気になるなら、本人に聞いてみるのが一番だと思うけど?」

          ――それは、そうだろうね。

          総司の言っていることは、最もだ。
          本人の居ないところでぐだぐだ言っているくらいなら、直接聞いた方がいい。


          ……だけど、残念ながらそれを簡単に成し遂げてしまう人は、ごく少数で。
          ほとんどの人は、たぶん、聞けないと思う……話題にもよるけれど。







          「やっぱり、聞けない…………」


          藤堂があたしのこと気にしてるなんて、たまたまだ。
          たまたま総司と一緒に居るのを見て、なんとなく気になっただけ。

          総司と藤堂は同じ部活の先輩後輩だし、ただ、それだけだ……。














          「…………ま、僕はの好きにすればいいと思うけどさ」

          「うん……」


          そう言って、総司は頭をなでてくれた。






          「じゃあ、行こっか」

          「え、ど、何処へ?」


          焦るあたしに対し、総司は言った。







          「職員室だよ」

          「え、なんで?」


          今の流れで、なんで職員室なんだろう?

          そう考えたあたしの思考を読み取ったのか、総司は続けて言った。






          「僕、やっぱり古典は教えられないからさ。
           土方先生のところに行こっか」

          「ええっ!?」


          やっぱり苦手なんじゃない……!

          あたしはそう言い返したかったんだけど、
          総司がさっさと教室を出て行ってしまったから、慌てて後を追った。





















          「土方先生〜」


          やる気があるんだか無いんだか解らないような声で、
          総司が職員室の入り口に立って土方先生を呼ぶ。

          すると、割とすぐに先生が出てきた。






          「なんだ、総司。お前が俺に用とは、珍しいじゃねぇか」


          本当に珍しい、という顔をして土方先生が言う。






          「用があるのは僕じゃなくて、ですよ」

          「が?」

          「は、はい!
           あの、古典で解らないところがあるので質問したくて」


          総司の言葉により、先生は目線をあたしの方にずらしたので、
          あたしも用件を伝えた。






          「が解らねぇなんて、これまた珍しいな」

          「えぇ、まぁ……ちょっと、解釈の仕方が解らなくて」


          土方先生は上の学年の先生なんだけど、
          うちの学年でも、あたしのクラスだけ授業を受け持っているのだ。

          だから、あたしの成績とかそういうのも、知っている。









          「で、どこが解らないんだ?」

          「え、えーっと……」


          それからしばらく、解らないところについて土方先生に説明してもらった。




















          「……っと、こんなもんで解ったか?」

          「はい、すごくよく解りました!」


          やっぱり、土方先生って教え方が上手いよね。
          なんで総司は赤点なんだろう……。

          そんなことを考えていたあたしに、総司が言う。







          「、こっちの問題集の答え、間違ってるよ」

          「え、嘘!」

          「本当。ここはこの助動詞が入ってるから、こうやって訳さないと」


          古典の問題集の、あたしが書いた答えがどうやら間違っていたようで。
          総司は簡単に解説しながら正しい答えを書き込んでいった……






          「って、総司、古典できてる!?


          なんで!?






          「僕、テストは赤点だけど出来ないわけじゃないから」

          「余計タチ悪りぃんだよ、お前は」


          苦手なわけじゃなかったんだ……。















          「はぁ……。とにかく、古典はこれで大丈夫だな?」

          「はい、先生のおかげで」

          「で、他に解らない教科はあんのか?」

          「え? えーと、数学が全然解らないんですが……」


          あたしが頭に?を浮かべながらそう言うと、
          先生は、ちょっと待ってろと言ってその場を後にする。

          ……あ、ちなみにテスト前は職員室に入れないから、
          今あたしたちが居るのは、職員室じゃなくて適当な空き教室だったりするのだ。






          「おい、。数学ならこいつに教われ」

          「って、土方さん……突然連れてきといて、人使い荒いな」


          えっ……






          「原田先生!?」


          な、なんでクラスの教科担当でもない原田先生が!?
          いや、確かに原田先生は数学担当ですけど……。















          「うるせぇ、生徒が困ってんだから、力貸してやれよ」

          「ま、たまたま手が空いてたからいいけどよ……
           ……っと、総司も数学が解んねぇのか?」

          「いいえ、僕は解りますよ」


          なんか総司の言葉が嫌味に聞こえる気がしたけれど、
          そこはあえてスルーしとこう……。






          「じゃあ、俺は戻るからな」

          「は、はい。ありがとうございました、土方先生!」

          「礼なんていらねぇよ。
           それじゃ、テスト期待してるぞ」

          「はーい!」


          ――やっぱり、土方先生っていい先生だよね。

          土方先生が職員室に戻るのを見届けると、
          原田先生はさっそく教科書を開いた。















          「で、どこが苦手なんだ?」

          「あ、あの、ほとんど解んないんですが……」


          どうやらあたしは文系の人間のようで、
          理系教科(特に数学)は、からっきしダメなのだった……。







          「じゃ、基礎からやってくか」

          「は、はい、よろしくお願いします!」


          そうして、なりゆきで原田先生に数学を教わることになった。









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