ガラッ!



          「!!」


          職員室を飛び出したオレは、その勢いのまま
          さっきたちが勉強していた教室の扉を開けた。

          当たり前というか、突然オレが入ってきたことに
          も左之先生も、総司でさえも驚いているようだ。






          「なんだ平助、そんなに慌てて。何かあったのか?」


          左之先生がオレに問いかけてきたが、
          オレはその問いには答えずにの方を見た。







          「に、話があるんだ」

          「え、」


          オレがそう言うとは戸惑ったような仕草をして、
          助けを求めるように総司の方を見る。














          「…………ま、いいんじゃない、。平助の話を聞いてあげれば」

          「で、でも……」

          「僕と左之先生は、ちょっと席を外すからね。
           行きましょう、左之先生」

          「……そうだな」
 
          「そ、総司! 原田先生まで……!」


          が助けを求めたけど、
          総司と左之先生はさっさと部屋を出て行ってしまった。







          「…………」

          「…………」


          部屋に、沈黙が広がった。
          は落ち着かないようで、目をきょろきょろさせている。







          『……けどな、お前はもっと素直になった方がいいんじゃねぇのか』



          オレだってそう思うよ。






          『喧嘩ばかりじゃいけないこと、お前は解ってるはずだ』


          …………そうだ、オレはもう解ってるんだ。
          喧嘩ばかりじゃ、それだけじゃの力になってやれないことを。














          「あ、あのさ」

          「うっ、うん」


          あー、ちくしょう!
          いざってときに言葉が出てこねぇ……。

          …………けど、ここで言わないと。
          次の機会なんて、無い気がする。







          「えっと……お前、さ。
           なんか、昨日から元気ないよな?」

          「……!」


          は目を見開いた。
          それは、たぶん……図星ってことだと思う。






          「何か、あったのか?」


          そう問いかけてみるが、からの答えはない。
          そして、しだいには俯いてしまった。














          「お、おい、大丈夫か?」


          具合が悪くなったのかと思ったオレが、
          に近づき顔を覗き込もうとすると。







          「…………なんで」

          「え?」


          聞き逃してしまいそうな小さな声で、でも確かに言った。






          「なんで、気づくの?
           あたしが落ち込んでることなんて、誰も気づいてなかったのに」


          総司以外は誰も、とは続けた。






          「……何かで悩んでるんだな?」

          「…………」


          は、再び黙り込む。







          「なんで悩んでるんだよ」


          オレが問いかけ続けるが、それでもは答えようとはしない。




          『っ……
           あ、あたしがそんな優しいキャラなわけ、ないじゃん!』


          ふと、オレの頭にあのときのこいつの泣きそうな顔が浮かんできた。














          「…………オレが、千鶴みたいに相手を気遣えって言ったからか?」

          「……!」


          は、さっきと同じように目を見開いた。
          どうやら、これも図星のようだ。





          『……いや、そんなはずはない』


          そう、思ったのに。
          やっぱりこいつは、オレのあの言葉が原因で落ち込んでたんだ……。










          「…………ごめん」


          今度は、オレが俯いた。
          が落ち込んでいたのは自分のせいだと思うと、なんとなく顔が見れなくて。






          「あんなこと言ったけど……本当にそう思ってたわけじゃなくて」


          いつも言い合いになると、引っ込みがつかなくなって。






          「お前を傷つけるつもりもなくて」


          ――ただ、素直になれなくて。

          上手い言い回しも、かっこいいセリフも出てこない。
          だけど、オレは自分なりに言葉を選んでいった。





          「だから、その…………ごめんな」


          なんだ、オレだってやれば出来るじゃん。


          言いたいことを素直に言った後、
          オレは、どこか客観的にそんなことを思っていた。






          「藤堂…………」


          ずっと黙ってたは、俺の名をつぶやいた。















          「何か変なものでも食べたの?」


          の次の言葉を待っていたオレは、それを聞いて豪快にこけた。






          「なっ、なんでそうなるんだよ!」


          人が真剣に話してるってのに、何言ってんだこいつ!






          「だ、だって変だよ!
           藤堂は、いつもこんなキャラじゃないでしょ?」

          「キャラとか、どーだっていいじゃん!」

          「でも……。

           そもそも、あたしが悩んでることに気づいたりとか、
           そんな芸当できなさそうなのに!」


          に悪気は無いみたいだったが、
          なんだか腑に落ちないことを言われた気がする……。






          「いつもあんなに憎まれ口ばっかりで、あたしとは喧嘩ばっかりで、
           謝ってくれるなんて思ってなかったから……」


          あー、もう!






          「別にいつも好きで喧嘩してるわけじゃねーって!

           それに、俺だって好きな女の子を傷つけたいだなんて思ってねぇから!
           だから、自分が悪かったらちゃんと謝るし!!」


          大声を出したせいで、オレの息は少し切れていた。
          そして、の顔は何故かみるみるうちに赤くなっていって……















          「…………って、あれ?」


          オレ……今、なんか余計なこと言ったよな!?






          「す、好きって……何それ、誰のこと?」

          「だから、それは……」


          好きだなんて、ここで言うつもりなかったのに。
          ちくしょう、こうなったらヤケだ!






          「だから、オレはお前のことが好きなんだよ!!」

          「嘘!」

          「嘘じゃねーって!」

          「だったら、もっと優しくしてくれても良かったじゃない!」

          「そんなこと恥ずかしくて出来るかっての!」


          って、なんでまた言い合いしてんだよ、オレたち!















          「と、とにかく、昨日のことはごめん……言い過ぎたよ」

          「も、もういいってば。
           そんなにしおらしかったら、藤堂らしくないでしょ?」


          は、苦笑いしながらそう言った。






          「それに……嬉しかったから」

          「嬉しかった?」

          「うん……その、あたしも藤堂のこと好きだから」


          えっ……






          「ほ、本当か?」

          「本当だよ」


          そう言ったは、総司に向けていたような……
          …………いや、それよりももっと綺麗な笑みを浮かべていた。














          「……じゃあ、あたし原田先生と総司を呼びに行くから。
           まだ数学教えてもらってた途中だし」


          オレがの笑顔に見惚れて黙り込んでいた間に、
          当のはさっさと教室を出て行ってしまった。




          『その、あたしも藤堂のこと好きだから』


          そっか、そうだったんだ…………






          「めちゃくちゃ嬉しい…………」


          ――ああ、土方先生の言う通り素直になって良かった。
          思わぬところで、の気持ちを知ることが出来たから。

          オレはそんなことを考えながら、しばらくその場に突っ立っていた。










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