『だから、オレはお前のことが好きなんだよ!!』


          藤堂と、両想いだった。

          その事実が妙に恥ずかしくて、その場から逃げるように、
          あたしは総司と原田先生を呼びに行くため教室を出てきたのだった。






          「…………けど、」


          あの言葉が、どんなに嬉しかったかなんて。
          藤堂は、きっと想像もつかないだろうね。





          『その、あたしも藤堂のこと好きだから』


          にしても、あたしの反応もなんかすっきりしすぎじゃない?
          本当に、これじゃ全く可愛げ無いよね………







          「…………ま、それはそれで良かったのかも」


          言葉に詰まって何も答えられなかったら、嫌だから。
          一番伝えたいことは、ちゃんと伝えないと。





          「藤堂があたしのこと気にしてるなんて、たまたまだと思ってたのに」


          そうじゃ、無かったんだ。














          「…………っと、やばいやばい」


          気を抜くと、顔がにやけてしまう。

          一人で廊下を歩いているとき、
          さすがにそんなことをしていたら怪しいだろう。


          我に返ったあたしは、気を取り直して職員室に向かった。

























          「おっかしいなぁ……」


          総司も原田先生も、てっきり職員室かと思ったのに。
          …………と言っても、総司は職員室には入れないんだけどね。






          「土方先生も、戻ってきてないって言ってたし」


          どこに行ったんだろう……?

          二人の行き先が特に思いつかなかったあたしは、
          いったんさっきまで居た空き教室に戻ることにした。





















          「……あれ? 総司と左之先生は?」

          「う、うん……職員室には居ないみたい。
           だから、いったん戻ってきたんだけど……」


          やっぱり、なんか恥ずかしいかもしれない…………

          藤堂も普通に会話しているものの、目は泳いでてちょっと不自然だった。







          「…………よっし! ちょっと座れ、

          「え、あ……な、なんで?」

          「数学ならオレが教えてやるから!」


          そう言いながら、さっきまで原田先生が座っていた椅子に、
          藤堂がドカッと座り込む。






          「で、でも」

          「いいから座る!」

          「は、はいっ」


          言いたいことはいくつかあったんだけど、
          藤堂のその勢いに負けて、思わずあたしも席についた。






          「言っとくけど、オレはお前と反対で古典は苦手でも、
          数学は得意だからな!」


          そうして任せろと言い切った藤堂が、ちょっとおかしかった。

          けれど、何故だが、さっきまで全く解らなかった問題が
          藤堂の説明を一度聞いただけで簡単に解けてしまったのだ。



















          「で、出来た!」

          「良かったじゃん」

          「うん、ありがとう、藤堂!」

          「お、おう」


          解らなかった問題が解けるというのは、やっぱり嬉しい。
          それが苦手な教科なら、なおのこと。







          「それにしても、総司と原田先生、どこに行ったのかなぁ」

          「今日は部活も無いはずだしなぁ……」


          そっちに顔出してるわけじゃないと思うけど、と藤堂は続ける。






          「……原田先生はともかくとして、総司は帰ったかも」


          その可能性は、高い。














          「…………あのさ、一つ聞いてもいい?」


          戻ってこない二人の居場所について、真剣に考え込んでいたあたしに、
          藤堂はちょっと言いにくそうに言葉を発する。







          「いいけど……何?」


          その言葉は、少し唐突のようにも思えた。





          「その……お前と総司ってさ……どういう関係なんだ?」




          『僕とが、なんで仲良しなのか気になるみたいだね』


          そっか、総司の言ってた……。














          「…………総司とは、幼馴染なんだ。
           だから呼び捨てで、敬語も使ったりしないし」


          あたしは、少し間を空けて答えた。






          「そ、そっか」


          あたしの答えを聞いて藤堂の顔が明るくなったのを、
          あたしは見逃さなかった。

          それが嬉しくて、思わず笑ってしまう。






          「藤堂も、雪村さんと仲がいいよね」

          「なっ……オ、オレと千鶴だって幼馴染だっつの!
           お前だって知ってんだろ?」


          焦ってそう言った藤堂の姿も、何だかおかしかった。














          「…………でも、なんだ、そっか」


          ふと、藤堂がそんなことをつぶやく。
          その意味を知りたくて、あたしは言葉の続きを待った。






          「いや、なんかさ。
           オレたちだって、こうやって普通に話せるじゃんって思って」

          「あ、」


          確かに、そうかもしれない。

          あたしたちは、いつだって、口を開けば喧嘩ばかりだったのに。
          それが嘘だったかのように、普通に話せている。






          「うん……
           そう考えると、今までのやり取りって不思議だったかもしれない」

          「だよな」


          喧嘩してばかりだったのに、今ではこうして共に笑い合える。
          それが、なんだか尊いことだな、なんて思ってしまった。



















          「…………つーか、総司と左之先生、いい加減に戻ってきてもいいよな?」

          「うん……本当にどうかしたのかな」


          席を外すとは言っていたけれど、
          やっぱりここまで長いこと戻ってこないっていうのも、変だよね……。






          「いつまでも学校に居るわけにもいかねぇし、捜しに行こうぜ」

          「賛成」


          藤堂に続いて、あたしも立ち上がった。







          「…………行こうぜ、


          そう言って、藤堂は手を差し伸べる。







          「…………うん、そうだね、平助」


          あたしは、ごく自然にその手を取った。




          素直になって、好きって伝えること、本当はすごく難しい。

          だけど、それが出来れば。
          きっとその想いは、もっと素敵な物になるんじゃないのかな。


          いつまでも自分の中に仕舞っているだけじゃ、ダメなんじゃないのかな。



          恋愛に詳しいとか、そんなことも無いけれど、
          あたしは心の中でそう思っていた。

          そして、繋いだ手に少しだけ力を込めた。
          平助が握り返してくれた気がしたのは、きっと気のせいじゃない。









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