「とりあえず、あの人には挨拶しておいた方がいいと思いますよ」


          そう言った新八くんに連れられて、
          あたしは“万事屋銀ちゃん”の下のお店に来ていた。




















行く先でまみえる者――第一話 四天王の一人






























          このお店……スナックを開いているのはお登勢さんという人で、
          “万事屋銀ちゃん”大家さんらしい。







          「お登勢さんは、かぶき町・四天王の一人なんです」

          「四天王……?」


          な、なんかすごそう……。






          「根は優しい人だと思うし、心配することないですよ」

          「そ、そっか……」


          とにかく、初めが肝心だよね!
          ちゃんと挨拶しなくちゃ……


          ガララッ







          「こんにちは、お登勢さん」

          「なんだ、新八かィ。昼は来んなって言ってるだろう」
 
          「すみません……でも早い方がいいかと思って」

          「……?」


          この人がお登勢さん……






          「は、初めまして! といいます」

          「さんは故郷から出てきて、これから万事屋に住むんですよ」

          「へェ……」


          なんか四天王っていうのも解るような貫禄……






          「あ、あの! あたしも頑張って稼ぐので、
           ちゃんと家賃も払えると思います」

          「そうしてもらえると助かるんだがね」

          「はい、お金のことですからちゃんとしますね!」


          今まで貯めてきた分もあるし、なんとかなるよね。


          ……これも新八くんに聞いたことなんだけど、
          銀さんはあんまり本気で家賃を払う気がなくて滞納してるんだって。














          「……そうかィ。
           ま、金にきっちりしてる奴は大抵信用できるからね」

          「……!」

          「改めて挨拶しとくよ。あたしはお登勢だ。
           よろしく頼むよ」

          「は、はい!」


          良かった、嫌われてはいないみたい……。





          「ところで、

          「はい?」

          「なんで万事屋に住むことになったのか……
           聞いてもいいかィ?」

          「……!」


          …………。











          「……はい、お登勢さんは大家さんだし、聞いてもらいたいです……
           …………新八くんも」

          「は、はい」


          それからあたしは、故郷を出て江戸に……

          銀さんと一緒にここに来ようと決めるまでのいきさつを
          一通り話した。




















          「そうかい、そんなことがあったのかィ」

          「はい……
           銀さんは、あたしに手を差し伸べて、助けてくれたんです」


          会ってから一ヶ月しか経ってないけれど、
          が銀さんを“面白い”っていったのも解った気がする。





          「銀さんに依頼してくれたと、
           それを受けてくれた銀さんにすごく感謝しています」


          一人が嫌だなんて、そんな子どもみたいなこと言う年でもないのに。


          それでも銀さんは……あたしに手を差し伸べてくれた……。






          「銀さんに会えて、良かったと思ってます」

          「さん……」




          「……。(またあの天パーが成り行きで連れてきたのかと思ったら……
           どうやらそれだけじゃないみたいだねェ…………)」

















          「あの、お登勢さん……?」

          「何だい?」

          「銀さんってどんな人だか教えてもらえませんか?」

          「え?」


          あたしの言葉に、お登勢さんは面食らったようだった。







          「一ヶ月だけじゃ、まだ銀さんのことつかみきれなくて……。
           何か特徴とか、教えてほしいんです」


          そうしたら、もっと仲良くなれるかもしれないもんね。
          ……でも、さすがに本人には聞けないんだけれど。




          「(なるほど……奴がホレそうなタイプかもしれないねィ……
            周りにはいない部類だ。)」




          「お登勢さん?」

          「あァ……いいだろう、話してやるよ」

          「えっ、ほんとですか?」

          「新八も知ってること洗いざらい話してやりな」

          「はい」


          その後しばらくは、お登勢さん、
          新八くんと三人で、銀さんについての話で盛り上がった。






















          ガララッ



          ……!





          「銀さん!」

          「んだよ〜、お前こんな所にいたのかよ」

          「“こんな所”で悪かったねェ」

          「銀さん、あたしを捜してたの?」

          「まァな……うたた寝しちまったらいつの間にかいねーし」


          心配してくれたのかな……。






          「ありがとう、銀さん!」

          「別に何もしてねーよ」


          それでも……
          “誰かが捜してくれる”って、久しぶりだから嬉しいな。






          「えへへ♪」

          「なんだお前、やけに機嫌いーな……」

          「なんでもないよ。
           ただ、銀さんって格好いいなーって。ね、新八くん?(笑)」

          「え、あ、えっと……そうですか?」


          そうだよ。






          「オイてめー新八! になに吹き込んだ!?」

          
「ありのままをですよ」

          
「オイイィィ!!」




          「あはは」


          この二人のやりとり、ほんと面白いよね。















          「なァ、

          「……?」

          「確かにあの男はちゃらんぽらんだが……
           ついていくには、申し分ない奴だと思うよ」

          「……! ……はい!」

          「アンタの力であの男を更正させとくれよ」

          「解りました(笑)」


          家賃のためにも、いっぱい働いてもらわないとね!




















          「……あ、そろそろ夕食の準備をしないと」

          「もうそんな時間? じゃあ、あたしも手伝うよ」

          「お願いしますね、さん」

          「うん!」




          「ってオイ、新八ィ! まだ話は終わってねーぞ!!」

          「んじゃ、僕、上に戻りますね」

          「ちょ、待てっ……」












          「待ちな、銀時」

          「な、何だよ」

          「アンタ……にホレてるね?」

          「……!!」







          「(案外コイツも解りやすい男だねィ……)」








          「せいぜい、を守ってやることさね」

          「…………言われなくても解ってんだよ」



          ガララッ……ピシャン







          「フッ……(楽しくなりそうじゃないか。)」























          「ふぅ〜……」


          良かった、お登勢さん、すごくいい人だったな。



          ガララッ







          「あっ!」


          銀さんも戻ってきたかな?






          「お帰りなさい、銀さん!」

          「あ、あァ……」





          『オイてめー新八! になに吹き込んだ!?』

          『ありのままをですよ』





          「…………」

          「……? 銀さん?」


          どうかしたのかな……?






          「、お前……ババァと新八になに言われたんだ?」

          「何って……
           銀さんはかっこいいなぁって思うようなことだよ?」


          さっきも言ったでしょう?















          「……それ本気で言ってんの?」

          「もちろん!」


          冗談なんかじゃないよ。






          「銀さんは、ほんとにほんとにかっこいいよ!」

          「…………そーかい」

          「……??」


          そのときどうして俺が顔をそむけたのか、
          は一生知らないままだろう。




















          To Be Continued...「第二話 狂乱の貴公子