今日は、新八くんがあたしを自宅に招待してくれた。
彼の家は、道場だと言う。
それと、お姉さんが一人いるんだって。
行く先でまみえる者――第三話 最恐の女性
「ここが僕の家です」
「わぁ……!」
なんでこの街の建物ってどれも大きいの……!?
「さん、こっちですよ」
「あっ、うん!」
門のところで見とれてたら、
新八くんがいつの間にか先に行っていて……
そんな彼に呼ばれ、あたしは家の中に招き入れられた。
「……あら、新ちゃん帰ってたのね」
「あ、姉上、ちょうどいいところに。
姉上に紹介したい人がいるんですよ」
「紹介したい人?」
この人が新八くんのお姉さん……
すごく綺麗な人だなぁ……。
「新ちゃん……
今さら銀さんなんか紹介されても何の意味も無いわよ」
「確かに姉御の言うとーりネ」
「誰がこんな奴、紹介するっつったよ!!」
「オイてめーら、失礼なことばっか言ってんじゃねーよコノヤロー」
えっ? 何?
「ほら、さんが驚いちゃってますよ、全く」
「そりゃあ、おめーのツッコミが激しいせいだ」
「いじめてんじゃねーヨ、メガネ」
「え、何? なんで僕が悪者になってんの?」
え、ええと……?
「と、とにかく……姉上、紹介したいのは
銀さんじゃなくてこちらの方ですよ」
「まァ……初めて見る子ね」
「あ、あの、初めまして!
あたしはと言います」
新八くんのお姉さんだし、ぜひ仲良くなりたいよね……!
「私は新ちゃんの姉で志村妙よ。
“お妙”と呼ばれているわ」
「お妙さん、ですね」
ほんとに綺麗な人だな……。
「さんは故郷から出てきて、
今は銀さんと神楽ちゃんと一緒に住んでいます」
「まァ、そうなの」
「はい」
あ、そうだ、途中でおみやげ買ってきたんだった……
「あ、あの、お妙さん! これ、おみやげです」
そう言ってあたしが差し出したのは……
『お妙に会う?』
『うん、明日新八くんの家に行くんだよ』
『じゃ、アレは持ってった方がいいよ』
『アレ?』
『そう……
ハーゲンダッツをね』
…………そう、ハーゲンダッツだった。
「あら、ハーゲンダッツじゃないの!」
「が買ってきてくれたアル、姉御!
銀ちゃんと同じ万事屋なのに、銀ちゃんよりめっさ稼いでるネ」
「悪かったなァ、オイ、あんま稼いでなくて」
「ちゃん、こっちでおしゃべりしながら一緒に食べましょうか」
「……! は、はいっ!」
「神楽ちゃんもいらっしゃいな」
「ルージャ!!」
「だから何だよルージャって!」
「あはは」
「そう、ちゃんはちゃんのお姉さんなのね」
「は、はい。
お妙さんは、に会ったことありますか?」
「ええ、いつも助けてもらってるわ」
助け……?
「は、しつこいゴリラストーカーから姉御を守ってくれてるネ」
「えっ、お妙さん、ストーカー被害に遭ってるんですか!?」
それって大変なんじゃ……!
「そんなに心配することじゃないのよ、自分でも退治できるし」
「で、でも……」
「、姉御はホントに強いから大丈夫ヨ!」
それならいいのかな……?
「でも、そのストーカーってどんな人なんですか?
逮捕してもらえないんでしょうか……」
「つーか奴が警察だしな」
「銀さん、それを言っちゃおしまいです」
「ゴリラよ」
「ゴリラアル」
「え? ゴリラ?」
なんか、前にもそんなこと聞いたような……。
「ちょ、待て、ストォーップ!
お願いだからその辺にしといて」
「あら、どうして止めるんです、銀さん」
「のやつ、真選組の奴らとも仲良くなりてェらしくてな……
頼むから夢は壊さないでやってくれ」
「あら、そうなの……
…………そうよね、いくらゴリラストーカーでも
ちゃんにとっては江戸でできた大切な友人(?)
かもしれないものね……」
「……??」
銀さんとお妙さん、なに話してるのかな?
「ちゃん、ストーカーの話なんてやめて
もっと楽しいこと話さない?」
「あ、そ、そうですね!」
確かに、嫌なことについて話すのって気分も悪くなるし……
「じゃあ、ちゃんの故郷のこと、聞いてもいい?」
「はいっ!」
そんなワケで、しばらくお妙さんと神楽ちゃん、
そして銀さんと新八くんも一緒におしゃべりをした。
「……あれ、お姉?」
「!」
新八くんの家からさほど離れていないスーパーで、と遭遇した。
「何してんの? お妙と会ってたんじゃ……」
「うん、会っていっぱいおしゃべりも出来たよ!」
「そう……良かったね」
やっぱりのアドバイスって的確なのかな。
「それでね、今日はみんなで一緒に
新八くんの家でご飯食べようってことになって、」
「材料を買いにきたワケか」
「その通り!」
さすが!
「みんなもその辺にいるよ」
「お姉は一人で何やってんの?」
「うん、ちょっとお菓子が欲しくてお菓子コーナーに来たんだ」
「なるほど」
は、今日はお仕事だって言ってたよね……
「は今から帰るの?」
「そうだよ。けど、その前にトシが
マヨネーズ買ってくってうるさくてさ」
マヨネーズ?
「お姉は知らなかったっけ? トシは極度のマヨラーなんだよ」
「マヨラー?」
マヨラーってあの、何にでもマヨネーズかけるっていう
あのマヨラーですか……?
「おう、待たせたな……
……って、お前は……」
「こ、こんにちは、土方さん」
土方さんの手元に目線を移してみると、
両手に袋いっぱいのマヨネーズを持っていた。
それにしても、こんなに使うのかな?
でも、摂りすぎもきっと良くないよね……
「土方さん、あの……」
「なっ……何だよ」
「あの……好きなものをやめるなんて出来ないと思うし、
知り合ったばかりのあたしに言われたくもないでしょうが……」
「……?」
だけど……
「だけど……やっぱり摂りすぎは体に良くないと思います。
だから、マヨネーズはほどほどにして下さいね?」
「あ、あァ」
「あたし、土方さんのことが心配なんですから」
「……!(俺を……心配…………?)」
あれ? 土方さん、黙り込んじゃった……
やっぱり図々しかったかな……。
「土方さん、ごめんなさい!」
「……は?」
「やっぱり、余計なお世話でしたよね……
ごめんなさい……」
どうしよう……。
「あ、いや……心配してくれるのは、ありがてェよ。
だから気にすんな」
「そう……ですか?」
「あァ」
そっか、良かった……。
「オーイ、〜〜」
「あっ、銀さんが呼んでる……
ごめんなさい土方さん、あたし失礼しますね」
「あ、あァ」
「もまたね!」
「じゃーね」
パタパタ……。
『あたし、土方さんのことが心配なんですから』
「…………」
いつも、俺のマヨを見ると大抵の奴が引いていた。
それをアイツは……
「心配……か」
アイツが本気で心配してるかどうかなんて、目を見れば解る。
「……そうだ」
アイツは……本気で俺のことを心配して……。
そのことで俺の機嫌は自分でも驚くほど良くなり……
屯所に戻ったのちも、
山崎のミントンを今回ばかりは見逃してやった。
「あれ? トシの奴、今日はマヨが少ないなァ」
「そう? はどっちにしろ摂りすぎだと思いますケド」
それからトシのマヨ使用量が減ったこと、
自分の言葉が効いたからだなんてお姉は夢にも思わないだろうね。
To Be Continued...「第四話 空翔ける船の長」