『依頼したいことがあるから、明日屯所に来てくれ』
昨日の夜、土方さんから連絡を受けたあたしは、
銀さんに真選組の屯所まで送ってもらっていた。
行く先でまみえる者――第五話 その男は危険ゆえに
「着いたぞ、」
「うん」
この間も思ったけど、ここって万事屋から割と近いよね……。
次は道を覚えて、一人で来てみようかな。
「送ってくれてありがとね、銀さん!」
「いや、気にすんな。
それより、仕事が終わったら連絡しろよ。迎えに行くから」
「はーい」
さてと……。
「お仕事、頑張ろう!」
「さん、さんが来てますよ」
「おー、サンキュ〜」
「お疲れさま、」
あたしが通された先の部屋にはがいて、
机の上にはに資料みたいなものが置いてあった。
「今日って、からの依頼なの?」
「違う違う、トシだよ」
「そっか……」
まぁ、土方さんが連絡くれたんだし、
普通に考えてそうなんだけど……
……土方さんの姿は、まだ見当たらなかった。
「たぶん、そのうちトシも来ると思うよ」
「うん、解った」
でもまさか、また依頼してくれるなんて……
あたしが江戸に出てきて真選組の屯所に泊めてもらい、
万事屋に移動した日の翌日……
土方さんは、あたしに依頼してくれたの。
警戒されてるとばかり思ってたから、
正直びっくりだったけど……。
そのときは、書類の整理をお手伝いしたんだよね。
今日はどんな依頼かな……。
「……あ、悪りィ、待たせたな」
「いえ、大丈夫ですよ」
「そ、そうか」
「(何どもってんだコイツ)」
ええと……。
「それで、今日はどんな依頼を……?」
「あァ……攘夷志士の存在は知ってるな?」
「あ、はい」
桂さんみたいな人たちのことだよね……。
「攘夷志士にもいろんな奴がいてな」
「いろんな……?」
「簡単に言えば、誰に従ってるかってことだよ、お姉」
あ、なるほど……。
派閥とか、そういうことだよね。
「その中の一派が、最近夜中に動き回ってるようなんだ」
「……何か企んでいるんでしょうか?」
「さァな……
…………それを、お前に調べてきてもらいたい」
「えっ……」
あたしに……?
「で、でもいいんですか、そんな大切なお仕事……」
いくら依頼をしてくれたからって、
土方さんはまたあたしを完全に信頼してるわけじゃないはず……。
そう考えたあたしは、思わず聞き返していた。
「……それなりに危険だろうし、
俺もお前に任せるのは少し迷ったが、の勧めでな」
「の……」
「そーゆーコト。
今はミントンも別の任で出払ってるしね」
「ミントン?」
「山崎のことだよ」
あ、退くんか……。
そういえば密偵だって言ってたよね。
「頼めるか?」
「……はい、お引き受けします」
「そうか……ありがとな」
「助かるよ、お姉」
「ううん」
頼ってもらえるのは、すごく嬉しい。
それに、信頼してくれているのならば、その期待に応えたいから。
「……あっ、そうだ」
「……?」
忘れるところだった。
「これ、土方さんにお土産です」
「こいつァ……」
「マヨ?」
そう、あたしが取り出したのはマヨネーズだったのだ。
「なんでトシにお土産なの?」
「うん、この間お世話になったから」
『今だって……俺がいるだろ…………?』
あのとき、あたしは……救われたから…………。
「お世話って何?」
「秘密! ね、土方さん?」
「おっ、おう」
「……?」
納得のいかないに、何度か追及されつつも……
土方さんは、約束通り黙っててくれた。
「でも、あんまりたくさん使わないでくださいね?」
「あ、あァ」
「(てかコイツどもりすぎじゃない?)
……お姉、トシは前よりマヨの使用量が減ったんだよ」
えっ……
「ほんと?」
「うん」
そっか……。
「良かった、
土方さんも健康に気を遣ってくれるようになったんですね!」
「まァな……」
「(ホントは違うけどねェ〜)」
控えてくれてるなら、それにこしたことはないよね。
「土方さんに何かあったら、真選組のみんなはもちろん
あたしも哀しいですから」
「そう、なのか?」
「そうですよ!」
当たり前じゃないですか、とあたしは続けた。
「…………」
って、土方さん、また黙り込んじゃった……?
「……。(はァ〜あ、めんどくせーなトシの奴……)
トシ、とりあえずそのマヨしまってきてよ」
「あ、あァ」
「なんか目障りだし」
「って、オイィィ!!」
ちょ、なんで煽るかな、……!
「ひ、土方さん!
とにかくマヨネーズはしまってきた方がいいと思います
その……悪くなっても大変だし」
「そ、そうだな」
よし、乱闘が始まる前に土方さんが去ってくれた……。
「もう、も喧嘩を売らないでよ」
「トシをいじると楽しいんだよ。
だから総悟といつもトシいじって遊んでてね」
ひ、ひどい……。
「あ……ところで?」
「ん?」
「この資料は?」
この部屋に来たときから置いてあったそれについて、
なんとなく気になったあたしは聞いてみた。
写真も載ってるし……
誰かのプロフィールとか?
「あァ、それは攘夷志士のデータだよ」
「へぇ〜、そうなんだ」
そんなものもあるんだなぁ……あ、
「桂さんだ!」
「何? お姉、ヅラのこと知ってんの?」
「うん、こないだ会ったよ!
桂さんもお兄ちゃんみたいだよね」
「……そう?」
は「どこが?」みたいな顔をしてるけれど、
やっぱり桂さんもお兄ちゃんみたいって思うな。
「…………あァ、そうだ。
せっかくだから、お姉にも忠告しとくよ」
「忠告?」
そう言ったは、その中から一枚の資料を取り出した。
「コイツは高杉晋助……
攘夷志士の中で、最も危険な男だよ」
最も危険? それって、一体……。
「けっこう過激なことばっかりやっててね……
コイツに比べたら、ヅラはかなり温厚だね」
「そうなんだ……」
「手下も危険な奴ばっかりだよ」
「…………」
高杉……晋助…………
「……ま、そんなに会う機会もないと思うけど、念のためね」
「うん……そうだね」
がそう言うから、
あたしは高杉晋助のデータをあまりよく見なかった。
だけど、それを後悔する時は、すぐにやって来る。
To Be Continued...「第六話 計り知れない闇を持つ」