彼と出会ったのは、偶然だったのかもしれない。







Good-bye days















「……さてと」


今日はこの辺でいいかな。





「あんまり遅いと、補導されちゃうかもしれないしね」


さっさと始めないと……





「……よし」


ギターの準備も出来た。










きこえてるの?


何が、ときかれても答えられない


色々なことが、だよ


ねぇ、君には私の声がきこえていますか


あたしの想いが届いていますか








+++







「……くそ」


また面倒事に巻き込まれたな……

けっこう地味に生きてんのに、なんでだよ。
ったく。






〜〜♪






「……ん?」


歌……?








あたしの想いが届いていますか


……返事は来ない すれ違ってるね









「歌ってんのは、あいつか……」



こんな公園で……。
ストリートライブってやつか?

そんなことを考えながら、一歩踏み出したとき。

落ちていた小枝を踏んじまったらしく、
思いのほか大きな音がした。





「……!」


今の今まで歌っていたそいつがこっちを見て、
ばっちり目が合ってしまった。





「…………」


やべぇ、気づかれた……!

……あ、いや、別に気づかれたって
どうってことねぇか……





「…………」

「…………」


変に気まずい空気が流れるが、
オレたちは少しの間、互いに黙ったままだった。







+++






「…………」


この人は、確か……




「獄寺くん……?」

「あ? 俺のこと知ってんのか?」


私が名前を口にすると、彼は怪しむような視線を向けた。

だから私は、慌てて説明をする。





「わ、私、同じ並中の生徒なの!
 別に怪しい者じゃないよ!」

「……へぇ」

「変わった時期に転入してきた帰国子女って、
 何かと話題になるの!」


だから名前も知ってただけで……。





「……まあ、敵じゃあなさそうだな」

「敵?」

「……何でもねぇ」


敵って何のことだろう……。










「えっと……獄寺くんは何してたの?」

「突っかかってきた奴らを蹴散らしてきた」

「えっ……!?」

「文句あっか?」

「なななないです!」


確か、けっこうケンカしてるらしいって、
同じクラスの子が言ってたかも……。






「お前は……歌ってたのか?」

「え、あっ、うん!」

「ふーん……」


なんだろう……

見かけによらず(って言ったら失礼かな……)
歌に興味があるのかな?











「……なあ」

「はい」

「オレは、歌のことはよくわかんねぇけど……」

「……?」

「お前の歌、いいと思う」

「……!」


褒めて、くれたの……?










「……それだけだ。じゃあな」

「あ、あの、待って!」

「……?」


そのまま行ってしまうかな、と思ったけれど。
獄寺くんは立ち止まって、こちらを振り返ってくれる。





「私の名前は、!」


獄寺くんの隣のクラスなの。





「えっと、その……よろしくね!」

「…………」


なんとなくだけど……
獄寺くんとは、もっと仲良くなれる気がする。

だからこそ、改めて自己紹介をしたんだけれど……
彼は黙ったまま、こちらを見ているだけだ。










「……獄寺隼人だ。またな」

「……!」

図々しかったかな、なんて不安になってきたとき。

あまり大きな声じゃないけれど、確かに。
獄寺くんはそう返してくれた。


そして私の返事を待つことはなく、
今度こそ行ってしまった。










「獄寺、隼人くん………」


ちょっと怖そうだけど、本当は違うのかも……












「……そろそろ帰らなきゃ」


その後すぐ家に帰ったけれど、
ずっと獄寺くんのことが頭から離れなかった。


なんでだろう……?














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