「おはよう、

「おはよう」


翌朝、廊下で別クラスの友人に挨拶していると。

向こうからやって来る獄寺くんが見えた。





「ご、獄寺くん! おはよう!」


少し迷ったけど、思いきって挨拶をしてみる。





「…………」

「あ……」


無視されちゃったかな……。










「……はよ」

「えっ……」


また、ちゃんと返してくれた……?





「もしかして……」


――もしかして彼は、本当は優しい人なのかもしれない。

私はそんなことを考えた。






+++






「獄寺くん、おはよう」

「おはようございます、10代目!!」

「さっき挨拶してた子、隣のクラスのさんでしょ?」

「さっき……?」




私の名前は、! 獄寺くんの隣のクラスなの。










「ああ……なんか、そうみたいっスね」

「そうみたいって……
 さんって、男子に人気あるんだよ?」


そんな子と知り合いだなんて、獄寺くんすごいじゃない。

10代目はそう言って、驚かれている。




「そースかね?」

「そうだよ!」


10代目の話は一言一句聞き漏らさなかったが、
正直、オレにとってはあまり興味のないことだった。









ー! そろそろ教室入んなよ」

「あ、うん!」









「…………」


別に、あいつがどんな奴だって正直どうでもいいけどよ……

あいつの歌は、何故かオレの心に響いた。





「ただ……それだけだ」




















きこえてるの?


何が、ときかれても答えられない


色々なことが、だよ


ねぇ、君には私の声がきこえていますか


あたしの想いが届いていますか


……返事は来ない すれ違ってるね













「また歌ってんのか……」


――毎晩飽きねぇな。

……なんて思ってたら、ぽつりぽつりと雨が降ってきて。





「こりゃあ、すぐ本降りになるぞ」


あいつもさすがに帰るだろう……

そう、思ったのに。









君にきこえるくらい 思いきり叫んだ


どうですか これでもきこえないですか


……ねぇ、どうなの?



おしつけは良くないね でもやっぱり不安なんだ


お願いだから、こたえを下さい












少しずつ強くなる雨も気にせず、あいつは歌い続けている。






「何考えてんだよ……」


……ったく。















「……おい、風邪引くぞ」

「えっ……獄寺くん……?」

「今日はもうやめてさっさと帰れ」

「あ、うん……そうだね」


そう言っては、そそくさと片付けを始めた。






+++








「ふぅ……」


まさか、獄寺くんとまた会うなんて。

今日もケンカしてきたのかな?
でも、そんなこと聞けないんだけど……





「片付け終わったか?」

「う、うん!」


妙なことを考えていた私は、獄寺くんの声で我に返った。






「あの……ありがとう、獄寺くん」

「あ?」

「ずっと……傘を差しててくれて」

「あ、ああ」


私が片づけをしている間、
獄寺くんはずっと私に傘を差しててくれていた。

終わるのを待っている義理なんて、ひとつもないのに。
それでも、彼は待っていてくれた……。





「…………」


やっぱり獄寺くんは……
本当は優しい人なんだろうな。












「それじゃ……私、帰るね」

「ああ……お前、傘はあんのか?」

「折りたたみがあるから平気だよ」

「そ、か。気をつけて、帰れよ」

「うんっ」

「……じゃあ、またな」

「また、明日ね」


ああ、と短く答えて、獄寺くんは帰っていった。







「獄寺くん……また、話せるかな」


昨日初めて話をした人なのに。

私の頭の中は、この日も獄寺くんのことでいっぱいだった。

















そして、翌日の放課後。





「……おい」

「え……?」


用があって職員室に行き、そこから教室に戻る途中。
私は獄寺くんに話し掛けられた。





「あ、獄寺くん」

「お前、今日も歌うのか?」

「え、あ、うん、そのつもりだけど……」


でも、どうしてそんなことを……?





「……わかった、じゃあオレも行く」

「えっ……?」

「お前の歌は好きだから……また聴きてぇんだよ。
 ……じゃあ、そういうことだからな」

「あっ……!」


行っちゃった……。



お前の歌は好きだから……また聴きてぇんだよ。







「好き……か」


どうしてだろう……
他の人に言われたときよりも嬉しい。


改めて真正面から褒められたから?


それとも、獄寺くんに言われたから……?













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