きこえてるの?


何が、ときかれても答えられない


色々なことが、だよ


ねぇ、君には私の声がきこえていますか


あたしの想いが届いていますか


……返事は来ない すれ違ってるね




君にきこえるくらい 思いきり叫んだ


どうですか これでもきこえないですか


……ねぇ、どうなの?




おしつけは良くないね でもやっぱり不安なんだ


お願いだから、こたえを下さい




そうだ、あのとき……


私に傘を差し出してくれたね


私の声が、きこえていたんだね
















「……ふう」


一通り歌い終えた私は、息をついた。





「えっと……どう、だったかな?」

「…………良かった」


すぐに答えが返ってこなかったので、
少し不安になってしまったけど。

私のほうを見て、しっかりとそう言ってくれた。





「そ、そっか、ありがとう!」

「いや、別に……」


ホントのことだし、と、小さくつぶやいた。










「最後の歌詞に、ずっと迷ってたんだけど……
 獄寺くんのおかげで思いついたの」


だから、ありがとう。





「……傘、ってところか」

「そう」

「……思いついたのはお前だろ。
 オレは別に何もしてねぇよ」

「そんなことないよ」


そんなこと、ないんだよ。





「……そーかよ」

「うん!」


少し照れてるみたい。











「さてと、そろそろ帰ろうかな」

「……なあ」

「はい?」

「また……来てもいいか?」



また、来てくれるんだ……






「……うん、もちろんだよ!」

「そ、そっか。……また、な」

「うん、またね」


あれから獄寺くんは、
私が歌う日にいつも聴きに来てくれる。

私もさすがに毎日行くってわけにもいかないから、
そういう日は念のため学校で伝えたりして。


ちょっと厚かましいかな、とも思ったんだけど……

獄寺くんは素直に頷いて、
「じゃあ、また今度」と返してくれるのだ。















「あ……」


あれは……






「沢田くん?」


見覚えのあるその人に声を掛けると、
向こうも私のことを知ってくれていたらしく。

さん、と返された。





「うちのクラスの前でどうしたの? 誰か探してる?」

「え、あ、うんっ、そうなんだ!」

「誰? 私、呼んでくるよ」


他のクラスの教室だから、
きっと入りづらかったんだよね。










「あ、ううん!
 オレが探してたのは、君なんだ」

「私……?」

「う、うん!」

「そっか。それで、どうかしたかな?」


問いかけると、沢田くんはにっこり笑う。





さん……ありがとう」

「え……?」


唐突にお礼を言われ、私はわけがわからなかった。

そんな私の様子を察したのか、
沢田くんが慌てて言葉を続ける。





「あ、あのねっ! 
 最近、獄寺くんが楽しそうなんだ」


さんとよく話してるみたいだし、
それが理由なのかなって。





「そう、なんだ」

「うん!
 あんな楽しそうな獄寺くん、見たことなくて」


でも、沢田くんといるときは
すごく楽しそうに見えるけど……。





「なんていうか……
 友達の楽しそうな姿を見てると、オレも嬉しくて」

「うん」

「オレが言うのも変な話だけど……
 ありがとう、さん」

「ふふ、私は何もしてないよ」

「ううん……さんの力だよ」


沢田くんは、迷いのない声でそう言った。










「獄寺くん、いつもオレばっかかまってるから
 気が引けてたんだけど……」


楽しいことが見つかったなら、良かったと思って。





「……そっか」


沢田くんは、獄寺くんのこと大切に想ってるんだね。





「あ、う、うん……ときどき無茶苦茶なことするけど、
 やっぱり獄寺くんも大切な友達だから」

「そっか」


獄寺くんは、怖くなんてない。
それどころかとても優しい人。

だって、こんなに素敵な友達がいるんだもの。
優しいに決まってる。










「じゃ、じゃあ、オレもう行くね!」

「うん、ばいばい」



ううん……さんの力だよ。






「私の力、か………」


そうだと、いいな………。


















数日後。




「明日はお休みか……」


久しぶりに夜更かしして、新しい曲を作ろうかな……





「どんな曲がいいかな」


歌詞も……どういう雰囲気にしよう?












……――よしっ。





「……出来た」


もう3時か……。





「本当に夜更かししちゃった」


また落ち着いてから手直しもしたいし、
ひとまずいったん寝よう……















……。



…………。





ー! 起きなさーい!」





「ん……」


お母さんの声……?





「叔父さんから電話よーー!」


叔父さんから……










「はい、もしもし……」

「やあ、ちゃん」

「おはようございます」

「おはよう。どうだい、ちゃん。
 最近何かいい曲できた?」

「はい、昨日夜更かしして作ったんです」


私の叔父さんは、音楽関係の仕事をしている。

私が音楽を始めたのも、この叔父さんがきっかけだった。





「そうか、それは丁度いいな」

「え……?」

「叔父さんの新しいレコーディングスタジオが、
 ついこの間、出来上がったんだけどね」


ちゃん、そこでレコーディングしてみないかい?





「えっ、いいんですか!」


叔父さんのその言葉に、
自分でもびっくりするくらい食いついてしまった。





「ああ、もちろん」


君が音楽を続けてくれてることは、
叔父さんも嬉しいからね。





「もっと楽しみを知ってほしいんだよ」

「ぜひお願いします!」


こんなチャンス、めったにない……

そう思った私は、叔父さんのご厚意に甘えることにした。














「ほら、ちゃん。
 さっき歌った曲が、このCDに入ってるよ」

「わぁ、ありがとうございます!」

「記念に持って帰るといい」

「はいっ!」


私の歌がCDになっちゃうなんて……
早く、この歌を獄寺くんに聴いてほしいな!





「明日の放課後、聴いてもらおう!」


早く、早く明日にならないかな……?
















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