翌日。






「……よしっ」


今日はギターと、このCDも持って……





「早く公園に行こう」


早く獄寺くんに……この歌を聴いてほしいから。






「だから今……会いにいくよ」


あ、でも、昨日は気分が良くてわからなかったけど、
よく聴いたら変な曲ってことも……。

もう一度聴いて、確かめてみようかな。










「……変なの」


どうしてこんなに必死になってるんだろう、私……

でも、全然嫌じゃない。
むしろ、とても幸せ……





「そっか、私……」


私は、獄寺くんのことが……




……。


…………。











「……うん。
 今の私に出来る、精いっぱいが詰まってる」


さぁ、早く公園に行こう。
そして、獄寺くんに聴いてもらうんだ――……













胸を躍らせながら公園に向かった私が、
そこで見たものは……

いつもの獄寺くんじゃ、なかった。










「ごくでら、くん……?」

「……さん」


理由はよくわからない。

けど、ボロボロで血だらけの獄寺くんが横たわっていて、
隣には沢田くんと山本くんがいたのだ。





「どうしたの……!?」

「えっと、それが……」

「とにかく病院に……
 ……!?」


ケータイを取り出した私の手を掴んだのは、
獄寺くんだった。





「獄寺くん、離して!
 早くしないとあなたが……!」

「…て……れ………」

「え……?」


獄寺くんは、小さな声で確かに言った。


歌ってくれ、と。







「お前の、歌が聴きたいんだ……
 頼む………」

「でも……でもっ……!」

「聴かせてくれよ………」

「獄寺くん……」


早く病院に運ばないと危険だということは、
知識がない私にだってわかる。

だけど、私には……
彼の願いを無視することが、出来なかった……。











「獄寺くん、あのね……」


新しく作った曲を昨日、
叔父さんのスタジオでレコーディングしたの。





「そのCDがこれ」

「すごい、じゃねぇか……」

「っ……」


こんな状態なのに……
また、褒めてくれた……





「出来たばかりの、この曲……聴いてくれる?」

「ああ……」

















彼と出会ったのは、偶然かもしれない




必死で叫ぶ私の声を


あなたは きいてくれたね


すてきな言葉を 私にくれたね






あのとき傘を差してくれた


不器用な優しさ


あなただからこその 優しさ





私にとっては かけがえのない想い出





よく怪我をしているあなたを


見るのは少しつらいと思うよ


できれば あまり


無茶はしないでね





あなたを想って書いた


この新しい歌……





どうして こんなに


あなたのことばかり 考えているのかな





不思議だね


でも あなたが聴いてくれるから


今日も私は歌うよ


この、青い空の下






彼と出会ったのは、偶然なのかもしれない


















「でも……
 でも、運命だと……信じたいよ……」


獄寺くんと出会ったことは……
運命だったって、信じたいよ…………








「運命……だったんだろ………」

「え……?」

「オレたちが……出会ったのは……
 運命、だったんだろ…………」


獄寺くん……





「ありがとな……いい歌だった…………」

「う、んっ……」


頷いた私を見て、獄寺くんが微かに笑う。





「わ、たし……
 獄寺くんのこと、……好き……」


だから、あなたのことばかり考えていて。

この新しい曲も……
誰よりもあなたに、聴いてほしかった。



――これは、あなたを想って書いた曲だから。








「オレ、は……」

「……?」

「きっと……
 お前の歌を……初めて、聴いたときから……」

「うん……」

「お前のことが……
 好き、だったんだ……ろ……」

「……!」


ご、くでら、くん…………










「最期に……お前の歌が……聴けて、良かった………
 ありがとう………………」

「や、やだ! 最期って何……!?」

「じゃあ、な……」


じゃあな、じゃないよ!
いつもみたいに……またなって言って……!

お願いだから……





「行かないで……獄寺くん……!」

「はは……また、な…………」


みっともなく大声を上げる私に、
獄寺くんはいつものように、またなって言ってくれた。

けど、私は……
その言葉が、嘘であることをわかっていた。







「いやだよ!
 行かないで、獄寺くん……!!」














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