気づくとオレは、全く光の無い世界にいた。
「ここは……何処だ?」
暗くて何も見えねぇ……
「ヒヒッ……まさか、こんな所で
『強大な力を持つ魂』に会えるなんてなぁ」
「……!」
誰だ……!?
「まあ、そう警戒するなよ。
ちょっとお前の力を借りるだけ……」
「……?」
「その魂を食らってなぁ!!」
「……!」
魂を食らう……?
どういうことだよ……!
「ハハハハハ、もらったぁ!!」
「っ……!」
くそっ……逃げられない……!
「残念でしたね」
覚悟をした俺の耳に届いたのは
どこか優しくて、それでいて……
有無を言わせないような声だった。
「ぐあああぁぁ!!!」
直後、オレを食おうをしていたやつの悲鳴が聞こえる。
「…………?」
いつの間にか瞑っていた目を開けると、そこには……
「…………死神?」
真っ黒な衣に身を包んで、大鎌を手にした男が立っていた。
「ご名答です。
さすがは『強大な力を持つ魂』の持ち主ですね」
「何だよ、その……何とかの魂って」
さっきの奴も言ってたけど……
……あれ?
つーか、さっきの奴はどうなったんだ?
「あの者は私が滅しました」
「えっ……殺したってことか……?」
「そういう表現も出来ますね」
そんな、殺したって……
だいたいさっきの奴も、一体何者なんだ?
それにこの人、オレの心を読んでる……?
「申し訳ありません、『心を読む』という力は
遙か昔より死神が持ち合わせている能力なのです」
理解不能な状況に陥って混乱した相手と話すのに、
とても便利なものでして。
「今のオレが、その状況ってことか……」
「……ええ」
まあ、確かにそうかもしれない……。
「それでは、あなたが置かれている状況について、
一つずつ順を追って説明していきましょう」
「……分かった」
そしてオレは、その人から
疑問に思っていたことを全て教えてもらった。
「まず初めに、自己紹介からですね。
私はスペランツァ。『白』と呼ばれる死神です」
そしてさっきオレを襲ってきたやつは、
『黒』と呼ばれる死神らしい。
白は、『強大な力を持つ魂』とかいうのを
黒から護るのが主な役目だって話だ。
……で、その『強大な力を持つ魂』というのが、
今回はオレのことだということも教えてもらった。
「それにしても、」
「ん?」
「あなたは良い瞳をしていますね。お名前は?」
「え? ディーノ、だけど……」
「そうですか。では、ディーノ」
「あなたには素質があります。
どうです、死神になってみませんか?」
その人が、本当に信じられる相手なのかどうか……
確かな保障など全く無かった。
けど、オレは。
その問いに対し、自然と首を縦に振ったのだった。
「それでは、ディーノ。
今日から修行に励んでもらいますよ」
「はい、先生!」
「先生、ですか……
なかなか面白い呼び名ですね」
特にこう呼んでほしい、とは言われなかったけれど。
何となく、オレが自分から「先生」と呼び出した。
「ふふ、いいでしょう。
やはりあなたには素質がある」
――こちらの彼と一緒に、どうぞ修行に励んでくださいね。
そう言われて紹介されたのが、同期のスクアーロだったんだ。
「ケッ……」
スクアーロもオレと同じ、「強大な力を持つ魂」だったらしい。
「えっと……よろしくな、スクアーロ」
「フン」
そうして、オレとスクアーロの
死神になるための修行が始まった。
「ディーノ!
もっと大鎌を自由に操れないと、押し負けてしまいますよ!」
「は、はい!」
「スクアーロ! 『強大な力を持つ魂』は護るべき存在です!
もっとそういった心持ちで行きなさい!」
「チッ……」
先生の修行はかなり厳しかったが、
その甲斐あってオレたちはどんどん成長していって……
そのうち、本格的に仕事を任されるようにもなった。
「では、今回も二人でお願いしますね」
「はい!」
「……了解」
その日に担当したのは、スクアーロとペアでの仕事だった。
問題なく終えて、いざ戻ってみると……
先生が重症を負ったという、信じられない報告を受けた。
「先生!」
スクアーロと二人で、先生が運ばれた場所へと急ぐ。
扉を開けると、その先に痛々しい姿の先生がいた。
「ディーノに、スクアーロ……」
「しっかりして下さい、先生!」
「……何があったんだぁ?」
「少々、油断してしまいました……」
先生は、初めて会った「強大な力を持つ魂」と
その魂の置かれた状況について話していた。
そのとき背後から、急に黒が襲ってきたという。
「申し訳ありません……
まだあなたたちには、教えたいことがあったのに……」
どうやら私は……もう限界のようです……
「そんな……」
「慌ててはいけませんよ、ディーノ」
「だけど……!」
オレを黒の死神から救ってくれた、
大切な先生が消えそうだっていうのに……
「慌てないわけないじゃないですか!」
「ふふ……やはりあなたには素質がある」
「オレに素質なんて……」
オレは、たとえ痛みが無いとしても
魂を狩ることにさえ、苦しみを感じる死神です。
「素質なんて、無い……」
「そんなことはありませんよ……」
え……?
「その優しさこそが、死神に最も必要なものなのです。
スクアーロも、素直になれないだけで心優しいですしね」
ね、スクアーロ?
「フン……どうだかな」
悪戯っぽく問いかけた先生の問いに、
スクアーロはそんな風に答えた。
けど、その表情を見たら……
オレと同じように、先生を心配していることは分かる。
「その優しさが無ければ、
『強大な力を持つ魂』を救うことも出来ません」
白は黒と変わりない存在になってしまう。
「あなたたちを死神にして本当に良かった。
二人とも、後は任せましたよ……」
「先生、変なこと言わないでください!」
「しっかりしろ!」
私の後を任せられるのは……
あなたたち、だけです…………
「先生! 待ってください、先生……!!」
直後、先生はその場で消滅した。
死神に、いわゆる「死」というものはないようで……
その場で、何かの魔法のように姿が消えていく。
そんな感じだった。
「…………」
「……で、どうすんだ」
「何が……」
「死神をやめるっていう選択肢もあるんだぜぇ?」
死神を……やめる……?
「…………」
最初からオレは……自分は死神には向いてないと、
なんとなく感じ取っていた。
だけど、オレを信頼してくれた先生に応えたくて、
ずっと努力し続けていた。
死神をやめるという、選択肢……
『二人とも、後は任せましたよ……』
「…………いや、駄目だ」
やめるなんて出来ない。
「オレたちを最期まで信じてくれた先生のためにも、
死神をやめるわけにはいかない」
それが、オレを助けてくれた先生に返せる……
ただ一つの事だから。
「……そうかぁ。
ま、せいぜいオレの足を引っ張んなよ」
「ああ……これからもよろしくな、スクアーロ!」
「フン……
オレは仲良しこよしをするつもりは無いぜぇ」
そんな事を言ったスクアーロだが、
結局はオレと協力して仕事をこなしてくれた。
先生の言ってたとおり、やっぱり優しい奴なんだよな……
「……なんて、色々あったな」
あれだけ「死神をやめるなんて出来ない」
と言っておきながら……
オレは今、死神ではなくなっている。
……そう、人間になっていた。
「…………先生、」
オレは――……
NEXT