狩るのか、迎えに行くのか。





どちらだ――――――?















「……どちらでもない」


狩るわけじゃない。
けど、迎えに行くわけでもない。





「助けに……行くんだ」


を……助けに――……















「遅くなっちゃったな……」


まさか、先生に資料作りを頼まれるなんて……

たまたま通りかかったのが悪かったのかな。





「……とにかく、急いで帰らなきゃ」


そう思った直後。

一筋の風が通り抜ける。










……」

「ディーノさん!」


風と共に現れたのはディーノさんだった。
今日は死神の格好をしている。





「…………」

「あの、ディーノさん……どうかしましたか?」


……ディーノさんの様子がおかしい。

いつもみたいな笑顔を見せてくれないし、
なんだか少しつらそうにも見える。






、悪い……時間が来たんだ」

「……!」


それって、まさか……





「お前の……魂をもらう。
 黒に奪われる前に、オレがお前の魂を狩る」

「っ……」


やっぱり、そうなんだ……










「……分かりました」

「いいのか……?」

「はい」


だってディーノさんは、
「黒」から私を守ってくれるんでしょう?

だから……





「だから怖くもないし、大丈夫です」

……」


覚悟は出来ています。










「じゃあ……お前を連れていく」

「……はい」

「これ、持ってな」

「え……?」


ディーノさんは、死神の象徴でもある大鎌を
何故か私に差し出してきた。





「あの……?」

「オレをこの大鎌で狩ってくれ」

「えっ!?」



どうして……?





「お前の魂をもらうための儀式なんだ」

「で、でも……ディーノさんに危険は?」

「死神に鎌は効かないから平気だぜ」


そうなんだ……

てっきり、私がこの大鎌で狩られるのかと思ってた。





「『黒』から守るためだから、少し変わってるんだ。
 変な感じがするだろうけど頼む」

「わ、分かりました」


本当に……大丈夫なんだよね……?










『仮に無茶なことを言ってきても、だ。
 奴の指示に従っとけぇ』






「……!」


そういえば、スクアーロさんが……
そんなことを言っていたよね。





『……平気だ、お前に害は無ぇよ』





私に、害は無い……。


スクアーロさんの言っていた「無茶」が、
この事ならば……きっと私に害は無い。

けど、ディーノさんには何かあるということになる。










「…………」

「……?」


この人は、いったい何を……





「ディーノさんは……
 これから何をしようとしてるんですか?」

「……!」


ディーノさんの顔色が変わった。
やっぱり、何か隠してるんだ……。





「本当に私を狩るのなら、
 大鎌を持つのは死神であるディーノさんのはず」


これじゃあ、どう考えてもおかしいです。





「…………」


これじゃあ、まるで私が……





「私がディーノさんを、狩るみたい……」


でも、あなたが本来すべきことは……

こんなことじゃ、ないですよね……?










「……勘のいいお前は騙せなかったか」

「え……?」

「確かに、これは魂を狩る本来の方法じゃない」


やっぱり……。





「お前の言う通りだ。
 お前が、オレを狩るんだよ」

「そんな……どうしてですか……?」


なんで、私がディーノさんを……










「お前を助けられる、唯一の方法だからだ」

「助けるって……『黒』からですよね?」

「『黒』からじゃない。
『死』というもの自体から、お前を護る」


――そのために、お前がオレを狩るんだ。





「…………」


「死」というもの自体から、わたしを護る……?





「死なないようにする、ってことですか?」

「ああ。信用できる文献に書いてあったんだ、
 絶対に成功するさ」

「…………」


でも……





「大鎌で狩られたら……
 ディーノさんはどうなるの……?」

「消滅するだろう」

「……!」


やっぱり……
スクアーロさんが言ってたのはこの事だ……!










「そんなのダメです!」

……」

「なんで、私なんかのために……」


ディーノさんが消える必要があるの……?





「ディーノさんがいなくなる必要なんて無いです!
 やめてください、私なんかのために……!」

、オレは……」

「私を狩ってください!」


それで全て終わるでしょう?





「だからディーノさんが「お前が!!」

「……!?」


ディーノさんが私を狩って、と言おうとしたのに。

その言葉は、彼の声によって遮られてしまった。










「お前が……
 家族と幸せそうに笑っていると、オレも嬉しくなる」

「え……?」


さっきまでのつらそうな顔とは違い、
とても優しく微笑んだディーノさんが語り出す。





「お前が友達と楽しそうに笑っていても、嬉しいと思える。

 お前が死神であるオレとしゃべっていても、
 変わらず無邪気に笑ってくれることが……本当に嬉しい」


オレは、お前の笑顔に強く惹かれたんだ。
そのためになら、なんだってやろうと……

そう、決めた。





「お前が……のことが、好きだから」


一呼吸置いたディーノさんが、
私の目を真っすぐに見てそう言った。





「う、そ……」


ディーノさんが、私を……?





「だから……死なせたくないんだよ」

「っ……」


どうしよう……

こんな状況なのに、喜んでる自分がいる……




だって……


だって私も、


ディーノさんのことが、……










「…………ディーノさん、ありがとう」


私はそう言って、彼に触れるだけのキスをする。





っ……お前……」


あなたの気持ちが、すごく嬉しいです。





「私を死なせたくないと……
 好きだと言ってくれてありがとう」


その気持ちだけで、私は十分だよ。





……」


でも、ごめんなさい。





「あなたを身代わりにするなんて、私には出来ない」


だって……


だって私も、


ディーノさんのことが、……










「好き、だから……」

「えっ……」

「ディーノさんのこと、好きなの……」


だから私も同じだよ。

あなたに消えてほしくない。





「消滅なんてさせない」


――絶対に。










「ディーノさん、今までありがとう」

「お前、何を……!」

「好きだよ……」


きっと、これからも、ずっと。





「さようなら」

「待て、……!!」


ディーノさんの静止も聞かずに、
私は持っていた大鎌を振り上げ……





!!」


そして自分で


自分を狩った。










「さようなら……」


あなたのことが、大好きでした。


会って間もないけれど、本当に心から、





大好きだよ――……













エピローグ