布をかぶって顔を隠している印象。










「死神」について聞かれたら、
きっと今までは、そんな風に答えただろう。



――でも、その印象は覆された。


今、私の目の前にいる人は、全く死神には見えない。
綺麗な笑顔を見たら、むしろ天使だと思う。



だけど、それでも。

この人は本当に……本物の死神なのだ。










「…………」

「……まぁ、突然こんなこと言われても困るよな。
 とりあえず、ちょっと休憩するか」


こんなに無邪気に笑うのに死神だなんて……





「おかしいか?」

「……!」


今のは、声に出してなかったはず……

もしかして、心が読めるの?





「仕事上、便利なんでな。
 こーゆー能力も備わってんだ」


あんまり使いたくはねぇが、と
ディーノさんは苦笑しながら答えた。










「……ああ、ごめんな!
 やっぱ気持ち悪いよな」

「そんなことは……」

「いや、けどよ」

「大丈夫ですから」


確かに普段だったら、心を読まれるなんて嫌だろう。


でも、今は……

とても平常心でいられる状態じゃないし、
逆にありがたいのかもしれない。





「そうか……それなら良かったぜ」


ディーノさんは安心したようだった。










「あの、それで……」

「ん?」

「ひとつ質問してもいいですか?」

「ああ、いいぜ」


この人が本物の死神だということは分かった。

でも、まだ分からないことは多い。
ちゃんと聞かなきゃ……。





「私に……死期が迫ってるんですか?」

「それは……」

「……やっぱりそうなんですね」


ディーノさんは答えづらそうにしていたが、
それは肯定しているのと同じだった。









「お前の言う通り、お前はもうすぐ死ぬ」

「っ……」

「……最初から説明していくから、聞いてくれるか」

「はい……」


面と向かって「もうすぐ死ぬ」なんて言われたら、
パニック状態になってもおかしくないのに。

ディーノさんの真剣な声を聞いたら、
少し……ほんの少しだけ、落ち着いた気がした。










「オレたち死神は、ふたつに別れているんだ」


通称、「白」と「黒」と呼ばれている。





「白と、黒……?」

「まぁ見た目じゃあ分からないけどな」


いったい何が違うんだろう……。





「違いは、その狙いだ」

「狙い?」

「ああ。白――つまりオレたちは、死んだ人間の魂が
 無事に天界まで行けるように案内をしている」

「じゃあ、いい死神なんですね?」

「……まぁな」


私の言葉に、ディーノさんは苦笑した。











「黒はどうなんですか?」

「黒は……強大な力を持つ魂を、取り込もうとしている」

「強大な力を持つ魂?」

「そうだ。ごく稀に、特別強い力を持つ魂があってな。
 その力を取り込むことによって、死神は強くなる」

「なるほど……」


でも、取り込まれた魂ってどうなるのかな。
まさか、無事じゃいられないとか……?





「つまり、そういうことなんだ」

「……!」


あてずっぽだったのに……。










「白は、よほどのことが無い限り下界へは降りない」


魂を天界まで案内する仕事は、
その人物が亡くなったあとにするもの。

対象が生きているうちに、下界に降りることはない。





「でも、ディーノさんは……」


こうして、下界に降りている……。





「対象の魂が黒に取り込まれるのを、阻止するためだ」

「今回も、その『強大な力を持つ魂』を護るために
 ここに居るってことですか?」

「ああ」


でも、その対象の魂って……










「お前なんだ」

「え……?」


今、なんて……





「お前の魂が、黒に狙われてるんだ」

「そんな……」


じゃあ……私はこのままだと危ないの?





「心配するな」

「でも……!」

「言っただろ? オレたちは対象の魂が
 黒に取り込まれるのを阻止する、って」


そうだけど……。





「大丈夫だから、安心しろよ」

「ディーノさん……」


さっきみたいに、真剣は声で言うものだから。
私はまた、ほんの少しだけ安心できた。










……お前のことは、オレが必ず護るからな」

「ディーノさん……」


――この人は確かに死神だけど、
本当に私を助けに来てくれたんだ。

何の疑いもなくそう信じてしまえるほど、
その瞳は揺るぎなく、綺麗に透き通っていた。





彼が顔を隠したままだったら……
この瞳を見ることは、きっと出来なかっただろう。










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