「アレ? 、帰らないの?」

「うん、ちょっと図書室に寄ろうと思って」

「珍しいわね〜」

「うん」


図書室は嫌いではないし、
どちらかと言えば好きな場所だけど。

彼女の言う通り、頻繁に通っているかと聞かれれば
そういうわけでもなかった。





「ちょっと調べたいことがあって」

「そ? じゃ、先に帰るわね」

「うん、ばいばい」


彼女とはそこで別れ、私は図書室に向かった。










「確か、この辺にあったはず……」


……あっ!





「あった!」


私は、本棚から「死神」というタイトルの本を取り出した。


この本を見つけたのは3ヶ月前。
授業のための資料を、ここで集めていたときだ。





、見て見て!』

『どうかしたの?』

『これ見て!
「死神」だって。なんか怖そうじゃない?』

『確かにそうだけど……
 今は、この本は必要ないでしょ?』

『それもそうね』

『まったく〜』











「……死神は怖くないよ」


もし過去に戻れたなら、
あのときの自分に言ってあげるのに。




「きっと、全員が怖いわけじゃない」


ディーノさんはすごく優しいし。

確かに死神だけど……
天使みたいだな、って私は思う。





『よっ』

『えっ……ディーノさん!?』






「笑顔とか、本当に無邪気だし」


魂を取られちゃうって分かっていても、
なぜか憎めない。





「……なんでなのかな」


見た目のせい?

……ううん、きっとそれだけじゃない。









は、ヒトの本質を見抜く力があるわね』

『ほんしつ……?』

『簡単に言うと、いい人と悪い人を
 ちゃんと見分けられるってことよ』



小さい頃に、お母さんとそんな話をしたことがあった。

あのときは、話の半分も分かっていなかったけれど……





「…………」


ねぇ、お母さん。
私の見る限り、ディーノさんはいい人だと思うの。


……でも、私の魂を取っていく死神だから、
悪い人ってことになるの?

こういう時はどうすればいいの……?










「……なんて、聞けるわけないよね」


急に死神の話をしてもね。





「お母さんなら、信じてくれるかもしれないけど」


でも……

それだと、私が死ぬことも話さないといけない。
できれば、それは避けたいし……





「……やっぱり言えないね」


お父さんにも、友だちにも。

誰にも言えない……
ううん、言わないほうがいい。










「……あ、」



この本って、詩集だったんだ。

死神についての研究というか……
そういう感じの本だと思ってた。





「死神についての詩、か」


おもしろそうだな。
ちょっと、読んでみよう……










「魂を頂きに参りました」と

漆黒の衣で顔を隠す

死に関係している神が 

大鎌を手にして言った


何を思い 魂を狩るのか

わたしには分からない



話を聴いたの

とても大切な事情があるのだという






「……あ、」


なんか、今の私みたい……





だけど どんな理由があろうとも





それに出会ったらさようなら。






きっとそういうこと











「…………」


ディーノさんは狩りに来たわけじゃない……
護りに来てくれたんだと、私は思うんだけどな。





「……さようなら、か」


そんな単純なことじゃないって、信じちゃダメ……?










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