ディーノさんは、見た目は天使みたいな人。
性格も悪いところなんてなく、むしろ良い。


でも、何度そう思っても……彼は紛れもなく死神なのだ。










「そういえば……」


ディーノさんって、他の人にも見えてるのかな?
それとも全然見えてないとか?





「『幽霊』とは違うよね……たぶん」


どうなんだろう……?










「……と、とにかく!
 今はお母さんに頼まれたお使いを済ませないと」


考え事ばっかりしてても疲れちゃうし……

なんて考えていたところで、ふいにケータイが鳴る。





「誰だろう……」


ディスプレイを見ると、同じクラスの友だちだった。





「あっ、! 
 今からクラスの連中でカラオケ行くのよ」

「そうなんだ」

「そ! だから、もどう?」

「うーん……」


せっかくだから、行きたい気持ちもあるけれど……

お母さんのお使い中だから、と伝えて断った。





「じゃあ、また今度行こうね!」

「うん!」

「それにしてもさー、

「ん?」

「いつの間に彼氏できたのよ?」

「……は?」


全く予想していなかったことを聞かれ、
私は間抜けな声を出してしまう。





「『は?』じゃなくてさ」

「だ、だって! 彼氏なんていないし……」


いったい何のこと……!?





「とぼけないでよ〜。この前、見たわよ!
 金髪の人と一緒にいたでしょ?」

「………!」


それって、まさか……
ディーノさんのこと……?










「ねぇ……その人、どんな格好してた?」

「え? 別にフツーのカッコだったけど」


ということは、普段着のときだよね……。






「どうかした?」

「あっ、ううん! なんでもないよ」

「そう? ま、次の機会に遊びましょ!」

「う、うん! またね」


なるほど……

普段着のディーノさんは、他の人にも見えるんだ。










「……じゃあ、黒い衣を羽織っているときは?」


もしかして見えないのかも。

そう考えると、けっこう不思議で……





「面白いよね……」


……なんて考えながら歩いていたせいか、
私は誰かにぶつかってしまった。

顔を上げると、「いかにも不良です」
というような格好の男性が立っている。





「す、すみません……!」

「謝ったくらいで済むなら警察はいらねぇだろ、姉ちゃん?」

「で、でも……」


どうしよう……





「落とし前つけさせてもらうぜ!」


殴られる……!?





「っ……!」


怖くなって、思わず目をつぶってしまったけれど……

予想していた痛みは、全く感じなかった。










「…………」


不思議に思って、ゆっくり目を開けてみると。





「ディーノさん……!」


いつの間にか、ディーノさんがすぐそばに居て。
不良っぽい人のこぶしを、しっかりと受け止めていた。





「大丈夫か、?」

「あっ……はい!」


顔だけをこちらに向けたディーノさんが、
いつのも笑顔で問いかける。

びっくりして反応が遅れてしまったけれど、
私はなんとか返事をした。










「……こいつには手を出さないでもらおうか」

「っ……! 
 ちっ、今日は勘弁してやる!」


不良っぽい人のほうに向き直って、
低い声でそう言ったディーノさん。

そんなディーノさんの気迫に負けたのか、
不良っぽい人はそそくさと立ち去っていった。










「ありがとうございました、ディーノさん」

「気にすんなよ。
 でも、お前もあんま考え事しながら歩くなよ」


優しい笑顔でそう言って、頭を撫でてくれるディーノさん。
私はそのことに、ひどく安心してしまった。




















見えているのはだぁれ?






この人の心はきっと、


「死神」じゃない――……










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