「あっ、武!」
「……」
大学構内を出る手前で、幼馴染の姿を見つけた。
家は近いのに会うのは久しぶりだから、
なんだか嬉しくなってしまう。
「ね、今から帰るの?
久しぶりにどこか寄って、おしゃべりしない?」
「悪りぃ、ちょっと行けねぇわ」
今日も部活なのかな?
「これから予定あってさ。ごめんな」
「そうなんだ……じゃあ仕方ないよね!
あたしの方こそ、ごめんね」
「武ー!」
ふいに誰かが、幼馴染を呼ぶ。
声のしたほうを見ると、見知らぬ女性が立っていた。
「そろそろ行くわよー!」
「あ、はいっ!」
けっこう親しそうだけど……
敬語ってことは、年上?
「……部活の先輩なんだ」
「マネージャーさんとか?」
「ああ」
「ふうん……
まあ、先輩待たせちゃ悪いよね!」
びっくりした、あの人とデートでもするのかと思った。
「……違うんだ」
「え?」
「オレ、あの人のことが好きなんだ」
「……!」
あの人のことが、好き……
「まだ付き合ってねぇけど。
これからそうなるように頑張る」
「……そう」
「そーゆーわけなんだ……ごめんな」
「気にしないでよ!
おしゃべりならいつだって……」
「ごめん」
あたしが最後まで言い終わる前に、武が言葉を遮る。
「しばらくお前とは会わないことにする」
「えっ……なんで?」
「先輩に誤解されちまうし」
「…………」
武の言葉が、あたしの胸にひどく突き刺さった……
そんな気がした。
「お前こと嫌いになったわけじゃねぇけど、その……」
「わ、わかってるよ! 仕方ない子ねー武は!」
「子ども扱いすんなよ、もう大学生なんだから」
そう言った武は、どこか不機嫌そうに返す。
「ごめんごめん、そうだったね!
じゃあね、武」
「ああ」
これは本気で怒っている顔だから、
あたしも素直に引き下がることにした。
「……それにしても、武に好きな人か」
なんか寂しいな、弟がいなくなったみたいで。
「弟……」
本当に、そうなのかな――……
「あ、さん」
「綱吉! やっほー」
「こんにちは」
構内を歩いていると、武の友だちである綱吉と会った。
彼は中学からずっと武と同じ学校なので、
幼馴染であるあたしとも仲良くしてくれている。
「さん、ちょっとお聞きしたいことが……」
「うん、何? お姉さんに何でも聞いてみな!」
「あはは……。
あの、山本のことなんですけど」
武の……?
「う、うん。それで?」
「最近なんか様子がおかしくて……
さん、何か知りませんか?」
「うーん……」
思い当たることと言えば……
「……武ね、好きな人ができたんだって」
「え!?」
「部活の先輩みたい」
「あ、あの人かも」
「綱吉も知ってるの?」
あたしもこの間、たまたま見かけたんだけど。
「この間、ふたりで楽しそうにしゃべってて……
確か、部活の先輩ですよね」
「そうみたい」
楽しそうに、か。
上手くやってるんだ、武のやつ。
「まあ、様子がおかしいのはそれが理由でしょ」
「そうみたいですね」
良かった、と言って綱吉は安心したみたい。
こんな友だち想いの子が近くに居るなんて、武は幸せだな。
あたしはそんなことを思った。
「ところで、綱吉はどうなの?
京子ちゃんとやらは♪」
「ななな何言ってるんですか、さん!」
「全く照れちゃってー」
かわいいなぁ、綱吉は♪
「じゃ、あたし授業あるから行くね!」
「は、はい! ありがとうございました」
「どういたしまして!」
そうして綱吉とは、そこで別れた。
「っ……」
なんだか苦しい……
「なんで……」
なんでこんなに、苦しいんだろう――……
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