俺が生きてきたこの道を
いつか振り返るときが来るのなら
そのときは 過去の失敗だって
笑い飛ばしてやろう
「みんな、お疲れ様〜!」
「ちゃん、今日も来てたんだね」
「うん!」
オレはバンドをやっている。
メンバーは、尊敬してやまない10代目と、
山本、ヒバリ、骸、芝生頭、アホ牛に……オレを加えた7人だ。
「これ、差し入れね」
「ありがとう」
今は、定期的にやっているライブが終わったところ。
あまり大きな箱ではないが、
オレたちはこの場所を好んで使っている。
「、いつもありがとう」
「助かっていますよ」
「いえいえ! 気にしないでください」
そして、さっき楽屋へ入ってきて
ヒバリや骸と話しているのが。
骸とアホ牛以外は、みんな同じ中学だったし……
オレたちと付き合ううちに二人とも知り合ったので、
全員がそれぞれ顔見知りだと言ってもいい。
「ちなみに!
ツナとしての、今日の評価は?」
「えっと……90点、かな」
「10点マイナスな理由を知りたいですね」
「全くだよ」
「え、えーと、それは……」
オレたちがバンドを始めてから、数年が経っていた。
始めたばかりの頃は、色々と問題もあったが……
10代目がオレたちをまとめて下さったおかげで、
今はこうしていいバランスを保っている。
「最初のあの曲なんだけど、
もう少し強めに行ってもいいのかなって」
10代目は作曲に徹していて、
舞台上ではパフォーマンスされない。
バンドの構成としては、オレがボーカルで……
ああ、それと。作詞もオレがやる。
「じゃあ、みんな全体的にもう少し強めの音で行くか?」
「とはいえ、山本氏。
あまり強すぎると、かえって……」
山本がベース、芝生頭がドラム、骸がキーボードで
ヒバリとアホ牛がギター。
ギターはオレも、時々いじったりする。
「とりあえず、ヒバリさんと骸は……
演奏中だけでも楽しそうにしようよ」
いつも闘争心むき出しなんだから。
「確かにツナの言う通りかも」
「さん、あなたまで!」
「君もなかなか言うね、」
「えへへ」
10代目はオレの書く歌を褒めてくださるが……
オレとしては、少し複雑だった。
「…………」
スポットライトの下で歌うたびに……
自分の幼さを、ひどく痛感しているから。
もちろん、そのときの自分にできる限りを
歌詞にしているつもりだ。
けど、なんだか……
どこか納得のいかないところがいつもあった。
「まあ、いいではないか!
前回から歌い始めた曲も、歌詞が好評なようだしな」
確かに、オレの歌詞に共感してくれる奴も結構いて。
それは本当にありがたいことだ。
「…………」
けど、伝えたいことを十分には伝えられなくて……
もどかしく思うことも少なくない。
その度に弱音がこぼれそうになるのを、
何とか押し留めている状態だった。
「じゃ、今日はこれで解散しようか」
「そうだな」
「では、ボンゴレ。俺はこれで失礼します」
「またね」
「極限! 気をつけて帰るのだぞ!」
「君、ちょっとうるさいんだけど」
「放っておきなさい。
話すだけ時間の無駄ですよ」
「何っ!?」
「隼人」
楽屋から出ていくメンバーを視界の端でとらえつつ、
動かないままでいると。
後ろから声を掛けられた。
「……なんだよ、」
「今日の隼人の歌、特に良かったよ!」
ご褒美にお酒ふるまってあげるから、
ちょっとうちに寄ってかない?
――がこう言い出すのは、必ず何かあるときだった。
こいつ自身が、何かで落ち込んでいるときか……
もしくは、オレが何か悩んでいるときでもあった。
初めは偶然かとも思ったが、
こいつには、オレの考えなどお見通しらしい。
「…………」
伝えたいことが十分に伝えられず、
考え込むことはいつものことだった。
だから、まあ……
今のオレは、特に「悩んでる」ってわけじゃねぇ。
だとすると……。
「……じゃあ、寄ってくか」
「やった!」
は嬉しそうに笑った。
「そうと決まれば、早く行こう!」
「分かったから引っ張んな」
だとすると、おそらく……
何かあるのは、こいつの方だろう。
「はい、乾杯〜!」
酒が注がれたコップ同士がぶつかって、
カラン、と音を立てた。
「うーん、やっぱりこのお酒おいしいよね」
「そうだな」
一見、何事も無いように思えるが。
だが、こいつに何か……あるはずなんだ。
「……なぁ、」
「なーに?」
「何か……あったのか?」
「え……」
表情が変わった。
やっぱりそうだった。
「……ねぇ、隼人」
「何だ?」
「あたし……自分が弱すぎて、ときどき嫌になるよ」
さっきまでの自然な笑顔とは違って、
泣き出しそうな……そんな笑みを浮かべている。
「隼人は、そんなことなさそうだよね」
核心については、話そうとしない。
けど、このままにしておくわけにもいかねぇ……。
「…………」
オレが自分のことを話せば、こいつも話す気になるだろうか。
それなら……
「オレだって……弱いところくらいある」
「うそ、」
「嘘じゃねぇよ」
オレはいつも伝えたいことを歌に乗せているが、
それが上手く伝えられなくて……
「自分は何やってんだって……いつも思ってる」
「隼人……」
だけど、それでも……
少しでも伝えたくて、オレはマイクの前に立ち続けるんだ。
「自分の幼さを痛感する度に、弱音がこぼれそうになる」
それをなんとか押し留めて、いつも歌ってるんだ。
「真夜中、オレは自分の部屋に帰って鍵をかけるが、
膨れたポケットからは、押し留めたはずの弱音が出てくる」
さっきまで隠せていたものが、急に飛び出してくるんだ。
「その弱音の数……1日分がお前に想像つくか?」
いや、きっと、お前の想像以上だと思うけどな。
「……ふふっ」
オレは、おもしろい話をしてるつもりは無かった、なのに。
それなのにこいつは、幸せそうに笑ったのだ。
「何笑ってんだよ」
「だ、だって……ふふっ」
「おい!」
「ごめんって」
それでもこいつは笑った。
オレの怒鳴り声など、何の効果も無いらしい。
「ふふ……笑っちゃってごめんね。
ただ、隼人は可愛い人だなぁって思って」
「か、可愛い?」
「うん!」
オレのどこが可愛いってんだよ……。
「隼人の弱音が聞けるなんて、今日はいい日だったな」
言い返したいことは、もちろんあったが……
きっと叫んでも唄っても勝てないだろうと、
なぜかそう思った。
「……オレに可愛いなんて言葉、似合わねぇよ」
それでも、そのまま言い負かされるのは悔しくて。
なんとか反論しようとする。
「ステージの上で必死に格好つけて……自分も人も騙した。
デカイことを言っている歌だって歌った」
そういう歌が、さっき鍵をかけた部屋のドアを叩きにくる。
「そしてオレのことを嘘つきだと、そう言うんだ」
自分が書いた歌なのに……
オレはその歌に、脅かされている。
「ねえ……隼人は格好いいと思うよ?」
「はあ?」
はそう言ってまた笑うのだ。
これだけ愚痴ったというのに、
オレの目を見てそんな言葉をくれた。
「格好つけてるとか騙してるとか……
それを嫌に思ってるところもね」
全部含めて可愛い人だよ、隼人は。
「……!」
オレが必死に自分をつくっても、気取っても……
こいつには、全て見透かされているような気がした。
「、オレは……」
「うん」
こんな弱くて格好悪いオレを受けとめてくれるに、
そのままポケット一杯の弱音や強がりの裏のウソもぶつけた。
本当はオレが、こいつの悩みを聴いてやるはずだったのに――……
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