「何をやっているんだ、!」

「っ……」


男はそう言って、私に平手を食らわせた。





「何度も言っているだろう、そうではないと」

「…………」

「見かけが良いから拾ってやったというのに……
 作法が身につかんようでは、我が娘として公表もできんわ」

「……申し訳ありません、お父様」


お父様、というのは、便宜上の呼び名に過ぎない……
少なくとも、私にとっては。





「…………」


私は……
私は、拾ってほしくなんかなかったのに。

あそこで、あのまま死にたかった――……















『みんな……死んでしまったのね……』


私の両親はマフィアではなかったが、
関係のある仕事についていた。

その繋がりから、なのだろうか……
住んでいた街ごと敵対マフィアに襲われてしまって。

みんな残らず、殺されてしまったのだ。





『お父さん、お母さん……』


知識のない私でもすぐに分かった。
二人は、もう死んでしまっている。

……いや、二人だけじゃない。
もうみんな……誰も助からない……。





『私だけが……』


私だけが、生き残った。










『ほう、生き残った者がいたとは』

『……!』


声に気づいて振り返ると、見知らぬ男が立っていた。
その男は、性格の悪そうな笑みを浮かべ近づいてくる。





『まぁ見た目もいい方だな……
 養子にとって、娘として公表することにしよう』

『なっ……』


何を……言ってるの……?





『より強力なマフィアのもとに嫁がせれば、
 きっと我々の力も増すはず』


そこまで言って、男は高笑いをする。





『私を……利用する気?』

『察しがいいな、それなら話が早い。
 来い、小娘!』

『嫌よ!』


誰があんたみたいな、いかにも悪そうなやつに……

そう思って、抵抗しようとしたけれど。





『言う事を聞け』

『……!』


唐突に鋭いナイフが、喉元に突き付けられる。





『…………分かったわ』


何の力も無かった私には、
男の言う通りにするほか無かった。












「私は……生き長らえたかったわけじゃない」


本当はあのとき、
私もあそこで死にたかったのに……





「そうよ、あの男に利用されるくらいなら……」


利用されるくらいなら、自ら死を選んだほうがマシだ。

そう思った私は、すぐ行動に移した。





「……これでよし」


とある場所に手紙を送って、そして。
その人たちと会う約束を取り付けた。















「……そろそろ約束の時間よね」


あの手紙が受理されたかどうかは、私には分からない。
けれど、もし受け取ってもらえたなら……

そろそろこの場所に現れてもいいはずだ。










「よぉ、この手紙を出したのはお前かぁ?」

「……そうよ」


銀髪の男がふいに現れ、
手にあるものを突き付けてくる。

それは間違いなく、私が彼らに送った手紙だった。





「へぇ〜、こんな子供が送ってきたんだ?」

「子供じゃない。ちゃんと報酬も用意できるわ」

「それならいいがなぁ」


私が手紙を送った相手。

それは、ボンゴレの独立暗殺部隊・ヴァリアーだった。
理由はもちろん、依頼をするためだ。

暗殺の、依頼を。





「…………」


私のもとにやって来たのは、
先ほどの銀髪の男と、冠を付けた金髪の男。

そうか、この二人は……





「……S・スクアーロとベルフェゴールね」

「……!」

「お前……なんで知ってんだぁ?」


ベルフェゴールは一瞬驚いた顔をし、
S・スクアーロは明らかに私を警戒し出した。




「私の家も、弱小ではあるけどボンゴレの傘下なのよ。
 あなたたちに関するちょっとした資料くらいあるわ」

「ふーん……ま、そんなことはどーでもいいけど。
 それで、依頼は?」


私は一枚の写真を見せ、二人に説明をする。





「とある弱小マフィアのボスが養子にした女よ。
 名前は『』って言うの」


この子を殺してくれるかしら。





「コイツ、あんたの親友とか? だったらウケるんだけど」

「……残念ながら、違うわ」

「そんな事はどーでもいいぜぇ!
 さっさとコイツを始末して報酬をもらうぞぉ」

「…………」


私は今、布をかぶって顔を隠し……
そして念のため声色も変えていた。

だから二人は、私が「」だと気付いていないのだ。










「……よろしくね。報酬は後で渡すわ」

「どうやって?」

「心配いらない」


きっとまた、会うことになるから。





「それじゃあ、また」


そうして私は……

自分を殺すよう、ヴァリアーに依頼したのだ。










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