「よっ! 一応、初めましてだよな」
ツナやリボーンからずっと話は聞いていたけれど、
ディーノさんと直接会うのは初めてだった。
「オレはディーノ。
キャバッローネのボスをやってる」
「わ、私はです!
よろしくお願いします、ディーノさ……じゃなかった、ボス」
「別に無理やり『ボス』って呼ばなくてもいいぜ?」
そう言いながら、ディーノさんは明るく笑ってくれた。
「じゃあ……さっそくだが行くか」
「はい」
「おい、獄寺」
「なんスか、リボーンさん」
「お前、今すぐ空港に行け」
「空港? なんで突然……」
「がこれからイタリアに行って、
正式にキャバッローネの一員になる」
「なっ……」
「オレは、あいつをボンゴレに入れたかったんだがな……
あいつはキャバッローネを選んだんだ」
「なんで、……」
「直接あいつ聞いてみるんだな。
引き止めたいのなら、なおさらだぞ」
「っ……!」
「まだまだ修行が足りないな……獄寺も、も」
「…………」
これからイタリアに行って、
正式にキャバッローネの一員になるんだよね。
「最後の挨拶くらいは、すれば良かったかな……」
でも、会ったら自分に迷いが出るかもしれないから、
これで良かったんだよね。
「……さようなら、獄寺」
しばらく日本には来ないと思うけど、……どうか元気で。
ツナの右腕として、立派になってね。
私も遠く離れた地から、ずっと応援してるから……
「待て!!」
「……!」
今の声……まさか……
「獄寺……!」
振り返ると、予想通りの人が立っていた。
「リボーンさんに聞いたぜ」
「……」
「どういうことだよ、キャバッローネに入るって」
「……そのままの意味だけど」
なんで……
なんでここに来たの……?
「オレは……
お前と一緒に、ボンゴレを支えていくつもりだった」
「…………」
「それなのに、なんでお前はキャバッローネに……!」
私と一緒にボンゴレを?
何を言っているの?
私が居ても、邪魔にしかならないのに……
「…………」
このままここで話していても、決意が揺らぐだけだ。
早めに切り上げないと……。
そう思った私は、ひとつの嘘をつくことにした。
「なんでキャバッローネかって……
ボンゴレじゃ不服だからだよ」
「何だと……!」
私の言葉で獄寺は頭に血が上ったのか、
怒りに任せたように胸倉をつかんできた。
「おい、やめろ!」
「いいんです、ディーノさん」
「でもよ、……」
慌てて止めに入ってくれたディーノさんに、
「大丈夫です」と目だけで訴える。
あまり納得はしていなさそうだったけれど、
ひとまずは退いてくれた。
「私、ディーノさんのボスとしての力に惚れたの。
だからキャバッローネに入るんだよ」
「……本気で言ってんのか」
「うん」
……この顔は、本気で怒っている顔だ。
私だって本当はこんなこと言いたくない、
だけど。
このまま話していたら、
せっかく決めたことが無駄になってしまう……。
「…………」
それならこの際、とことん嫌われて追い出された方がいい。
そうだ、そのほうがいいに決まってる……
「本気かって聞いてんだよ。答えろ」
「っ……」
何やってるの?
一言「本気だ」ってそう言えば、
このままここを離れられる。
そうすれば、獄寺のためにもなるんだよ?
「…………」
でも……
そうだとしても……!
「本気だ、なんて……言えるわけ、ないっ……」
「……!」
私の表情を見た獄寺が、急に手を離した。
「本気なんて……言えるわけ、ないよ……!」
とことん嫌われてそのままここを発てば、
それで綺麗に収まったのに。
この場限りの嘘だとしても、
最後の一言は、どうしても……言えなかった。
「獄寺はいつも、私のこと守ってくれる……
けど、そのせいで手を煩わせていて……」
それがずっと、嫌だった。
「だからここを離れるようとしたの!」
「お前、……」
「獄寺にはツナの右腕になるっていう、目標があるから」
その邪魔だけは、したくなかった。
だから、キャバッローネに入ろうとしたのに……
「なんで……なんでここに来たの……?」
どうして、私の決意が揺らぐようなことするの……?
「オレは……」
「私は!」
「……!」
獄寺が何か言いかけたのは分かったけれど、
私はそれを遮るように大きな声を出す。
「私……私は……
獄寺のことが……好き、なの……」
「……!」
本当は、言葉を遮ってまで
言いたいことがあったわけじゃない。
でも考えるより先に、想いが口から出てしまった。
「……」
目の前にいる獄寺は、驚いた顔をしている。
でも、いったん出てきた想いは、
もう止められそうにない。
「好き、だから……本当は、ここに居たいよ!
でも……」
でも……
あなたの邪魔になるなんて、そんなの嫌だから……!
「……オレは、」
「きゃああああ!!!」
獄寺が、再び何かを言いかけた直後。
近い場所から、女性の悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ、今の悲鳴は!?」
ディーノさんが慌てて状況を確認しようとする。
「ボス! 大変だ!」
すぐに駆け寄ってきた部下の人によると……
どこかのマフィアがディーノさんを狙って、
攻撃をしかけてきたということだった。
「とにかく、一般人に被害を出さないよう、
奴らを一層するしかない。行くぞ!」
そう言ったディーノさんは、
部下の人たちを引き連れて駆け出した。
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